【内田雅也の追球】「とどけ!! 魂の応援」-ファンは阪神に人生を投影 9連敗でも甲子園で待っている

[ 2022年4月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5ー9巨人 ( 2022年4月3日    東京D )

「とどけ!!魂の応援!!」の横断幕を手に応援する阪神ファン(撮影・河野 光希)
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 9回表に本塁打が飛び込んだ左翼席には「とどけ!! 魂の応援」の横断幕があった。大げさではない。阪神ファンは心をこめて応援をしている。そして、阪神に自身の人生を投影している。

 当欄読者の声がある。携帯に届いたメッセージに「何連敗しようと逆境に立ち向かっていく姿で勇気を与えてほしい」とあった。自身へのエールを望んでいる。父親から町工場を継いだ男性は、経営が行き詰まった時、阪神の戦いぶりに元気をもらったと今も応援を続けている。夫を亡くし途方に暮れていた女性は、後を追おうとしたが、夫が好きだった阪神を追うことで救われた。

 監督・矢野燿大の方がよく分かっている。現役時代に知り合った筋ジストロフィーの男性患者から逆に勇気をもらった。基金を設立し、支援や寄付を続けている。

 監督就任後に掲げた「誰かを喜ばせる」は使命として最高のものだ。辛いだろうが、戦いを見つめ、勝利を待ち望む多くの人びとがいる。

 <野球というスポーツは>と伊集院静が『許す力』(講談社)で書いている。<奥が深く、実際のゲームでは奇跡と呼ばれるプレーが生まれる。その魅力を一度知った人は離れなくなり、己の人生とともにベースボールゲームを見つめる>。人生とともに阪神を応援する人がいるのだ。

 この日は苦しい展開だった。序盤から投手は慎重にいこうとして四球を与え、たまった走者を還される。与四球34個も被本塁打15本もリーグ最多である。

 これで開幕9連敗。長い球団史に汚点を残した恥であり、ファンを失望させた罪でもある。

 それでも前を向きたい。1971(昭和46)年8月2日、8連敗を喫した阪急監督・西本幸雄は「苦労は覚悟しとる」と言った。その後2分けし5日に連敗を脱出した。「連敗連敗で苦虫をかみつぶしたような顔と言われるのが嫌だった。だから努めて明るい表情をしてきた」。この年、阪急は優勝を果たしている。

 テレビ中継画面に映る矢野の顔が暗い。寝ていないのだろう。無理もないが「頑張れ」、いや矢野も使う書き方で「顔晴れ」と伝えたい。

 開幕から9戦全敗、1勝もできず、甲子園に帰る。多くのファンが待っている。 =敬称略= (編集委員)

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2022年4月4日のニュース