「サイン」でつながる選手とファン…転売「商品」には含まれない「思い出」という価値

[ 2019年2月15日 09:00 ]

北谷キャンプのサイン会で子どもに笑顔でサインする中日・松坂
Photo By スポニチ

 自主トレから春季キャンプと取材をしてきて、選手がファンにサインをする姿を幾度となく見てきた。サインする側とされる側。両者の距離感が適度に保たれているな、と思うと、見ているこちらもほっこりとした気持ちになる。そんなシーンに何度も遭遇した。

 1月の自主トレ期間中、DeNA・砂田は自身が横須賀の球団施設を訪れるかどうかをツイッターでわざわざ「告知」していた。

 「ファンの方から、(球場に来るかどうか)聞かれるので。僕のサインが欲しい人もその方がいいでしょうし」。そうして集まったファンに、ある日は1時間以上も青空サイン会。距離は100メートル以上もあっただろう。フェンス沿いにズラッと並んだ一人一人に丁寧にサインし、時には笑顔で写真撮影にも応じる。ファンに少しでも喜んでほしいとの思いがにじみ出ていた。

 春季キャンプ第1クールのある日には、巨人・岡本が練習終了後に30分以上もサインを書いた。本人は疲れていただろう。夕闇も迫り、周囲は暗くなり始めていた。それでも、待っていてくれたファンのために。全員にサインを終え、帰りのバスに乗り込もうとするとファンから自然と拍手がわき起こった。恥ずかしそうに手を挙げて応える4番打者。さらに拍手は大きくなった。

 「スーパースターだな」。冗談めかして声を掛けると、22歳の若者は「やめてくださいよ」と照れくさそうに笑った。ここにも、選手とファンの素敵な空間があった。

 いつ、どんな風にサインをもらったのか。選手の表情はどうだったか。「ありがとうございます」と伝えたら笑顔を返してくれた――。そんな思い出が一緒にあるからこそ、もらったサインには価値があるのだと思う。記者が初めてスポーツ選手にサインをもらったのは中学生の時。全日本プロレスを観戦にいき、グッズ売り場にいたジャイアント馬場さんにサインしてもらった。大感激したのはもちろん、あまりにも大きい体に大きな手、葉巻をくわえた温厚そうな顔。その姿は今でもはっきりと覚えている。

 最近では選手のサインの転売も問題になっている。オークションサイトでは中日・松坂のサイン入りユニホームが約5万円、サイン入りボールも1万円以上の高値で取引されていた。転売する側にしてみれば、希少価値こそあるがそれは単なる「商品」なのだろう。そこに「思い出」という価値は、一切含まれていない。(記者コラム・鈴木 勝巳)

続きを表示

2019年2月15日のニュース