反省を次に生かさな意味あらへん 東京五輪やるんはええけど、検証は忘れんといてや

[ 2021年7月28日 08:00 ]

鳥内秀晃氏
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 【名将鳥内秀晃の人間話 頼むでホンマ】いろいろ言われとった五輪が始まったな。それにしても、前回の五輪から5年もあったのに、何でこんなゴタゴタが起きてんの。プレーブックなんて、少なくとも開催する半年前には参加国、関係者に渡しとかなあかんのに、大会直前に完成するって、ありえへん話やで。

 そもそも、新型コロナウイルスが蔓延する前に、ちゃんとしたプレーブックってあったんかな。コロナの感染状況を見ながら、そのプレーブックを修正していくのが普通やのに、そんなもん最初からなかったんやろな。

 結局な、物事を決めなあかん責任者の能力不足やねん。何でも行き当たりばったりで、思いつきでやっとるから、ちゃんと準備しようとしてる部下も「やってられへん」という感じになってしもとるんやろな。

 この図式は政治の世界も一緒やと思うで。官僚が政治家にいろんなことで忖度してるやん。「一生、面倒見たる」って言われて、食い扶持は何とかなるけど、「そんな生き方で本人も家族も楽しいの?」とオレは聞きたいな。もともとは国のために働こう、と大志を抱いていたはずやのに、自分の出世ばっかり考えているうちに、違う道へ行ってしもて。それで人生に満足できるんやろか。

 五輪に話を戻すと、一番かわいそうなんはアスリートやチーム関係者、それから医療関係者、ボランティアなど実際に現場で働く人、宿泊地や事前キャンプ地の受け入れ先やで。アスリートなんて、感染を広げんためにいろんな制約を強いられて、競技に集中できひんやん。現場のスタッフかて、こんな状況でも、来た人をおもてなししようと思てはるはずやのに、ニュース見てると、急に「必要ありません」と言われたり、持ち場を変更させられたりして、「上」がやる気をなくすようなことばっかりしとるわ。コロコロ予定が変わっても、何の連絡もないわ、プレーブックの基準も教えてもらえへんホテルなんかも困っとったはずやで。人の気持ちをどない思ってるんやろな。

 何人かのトップアスリートは、こういう状況を憂慮して、五輪に来てへんやん。「そういう考えの選手もいる」で終わる話ちゃうで。「日本は安心や」って思われてへんわけやから、オレからしたら、ホンマに恥ずかしいことやねん。

 結局、こういう「上」を作ってしまう、選挙制度にも問題があると思うわ。菅首相や安倍前首相にしても、取ってる票数は、都道府県知事選の当選者より、はるかに少ないわけやん。それやのに、国民全体から支持を受けていると思いすぎなんちゃうかな。

 現在与党の自民党から総理大臣を出すのはええわ。けど、首相指名選挙は、国会議員だけやのうて、もう少し国民の意思が反映される形にならへんかな。国会議員の1票と国民1万票の重みが同じでもええやん。選挙戦の政見放送かて一方的に党首が喋るんやなくて、もっと質疑応答みたいな形で「本音」を聞きたいねん。それぞれの政策を吟味したうえで、「この人なら任せられるわ」って思う人に1票を投じられる形にせえへんと、今みたいなやり方しとったら、国民無視も甚だしいわ。

 前も言うたけど、資源のない日本って国は、もっと教育や研究にお金をかけて、優秀な人材を育成していかなあかんねん。教育に関していうと、子どもの成長って、先生の出来不出来で決まってしまう部分があるわな。その先生が今、特に公立は危機的な状況に立たされてるのを国は分かってるんかな。担任持ったら、教科を教える準備と事務作業で忙しすぎて、生徒とふれ合う時間なんかあれへん。もっと待遇面をちゃんと保障して、先生の数をどんどん増やしていかな。事務職員も増やして、そういう作業から先生を解放したらんかったら、第一に子供がかわいそうやわ。ちゃんとしたヤツが先生にならなあかんのに、今はテストの点さえ良かったら、教職に就けるやろ。日本は点数至上主義やから、その弊害が出とるわな。

 アメリカのアイビーリーグ(難関私立8大学の総称)に所属する学校なんか、成績が優秀なのは当たり前で、その上でボランティア、課外活動で何やったかをすごく重要視すんねん。そういう活動をせんと、テストの点数を取ることばっかり考えている学生は、社会へ出てもすぐにドロップアウトすることが統計でも実証されとるわ。日本も中学、高校で課外活動に取り組んだ年数が長いほど、大学を中退したり、就職して転職する割合が減ってることがちゃんとデータに出とる。それくらい「やり続ける力」って大事やねん。

 日本は過去の失敗を反省し、次に生かすことが下手な国って話は前回したわな。けど、東京五輪の問題点や不手際はちゃんと検証して、絶対、次に教訓を生かさなあかん。6月にJOCの経理部長が自殺したニュースの裏には、何があったんか。しっかり調べたうえで、今回の五輪にかかったお金の収支をオープンにせえへんかったら、また同じ失敗を犯してまうで。

 とにかく、どんな組織にも、若いリーダーが出てこなあかんわ。今までみたいに年功序列でやっとったら、いろんな分野で世界に遅れてまうわ。ITがええ例やろ。人材を育成するためには、教育の充実。そういうことを真剣に考えなあかん時期に来てるんとちゃうかな。頼むで、ホンマ。(関西学院大アメリカンフットボール部前監督)

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