波乱が起きても座布団が舞うことのない九州場所

[ 2016年11月19日 10:40 ]

九州場所の枡席に敷かれている座布団は投げられない仕様になっている

 【佐藤博之のもう一丁】一年納めの九州場所は連日、熱戦が繰り広げられている。初日には小結の玉鷲が横綱・日馬富士から殊勲の白星を挙げた。立ち合いで当たってから左でいなし、体勢を崩した横綱を右喉輪から一気に向正面に押し出し。館内には歓声と悲鳴が交錯した。だが、結びの一番での波乱にも座布団が舞うことはなかった。玉鷲は「座布団、来い来いと思ったが来なかった」と少し拍子抜けした様子だった。6日目は遠藤が5度目の対戦で白鵬から初勝利となる金星を挙げたが、やはり座布団が乱舞することはなかった。

 ご存じの方も多いと思うが、九州場所の枡席に敷かれている座布団は、投げられない仕様になっている。改良が施されたのは08年。それまでは他の場所と同様に1人用のものを使用していたが、2人用の長方形のもの(縦125センチ、横50センチ)になった。4人用の枡席では2人用のものが2つつながれており、総重量は4・8キロ。過去にはこれを投げるつわものもいたようだが、それは至難の業といえる。13年九州場所14日目に大関・稀勢の里が全勝の横綱・白鵬を破った際には、座布団乱舞の代わりに万歳が起きた。

 九州場所以外の枡席の座布団は全て一人用だけに、波乱の際に座布団は乱れ飛ぶ。その光景を、記者も記事に書き込んだことがある。だが、座布団投げはそもそも、日本相撲協会では禁止している行為である。館内で配られる取組表には「座布団やモノを投げて人に怪我(ケガ)をさせた場合は、暴行罪・傷害罪に該当する場合があります。物は絶対に投げないようお願いいたします」と記されている。その旨は館内アナウンスでも伝えられている。

 波乱に直面すると、観客も我を忘れて、つい投げてしまうのだろうか。ただし、日常生活で座布団を投げたことがある人は少ないはず。土俵までうまく投げ込める人はそうそういない。今年の名古屋場所では、あるご婦人が座布団を投げたが、うまくいかずに目の前の枡席に座っていた別のご婦人の頭を直撃するという“事故”が起きた。ぶつけられたお客さんは激怒し“土俵外の波乱”に発展。相撲協会関係者が慌てて止めに入る事態となった。

 怒りではなく、興奮で物を投げる行為は、アイドルやミュージシャンのライブなどでも起こっている。あるアイドルグループは、ファンがペンライトを投げる行為が続いたことによりペンライト自体の使用を禁止した。心ない一部の人のせいで、他のファンが多大な迷惑を被ってしまった。

 かつてはひいき力士の取組後に自分の羽織などを投げ、それを返却してもらう際にひいき力士にご祝儀をあげるという習慣があったようで、それが座布団投げのルーツとも言われている。そんな粋で人に迷惑がかからない行為ならいい。当たりどころが悪ければケガにつながる座布団投げは、絶対にダメ。座布団は座るためだけに使いましょう。(専門委員)


 ◆佐藤 博之(さとう・ひろゆき)1967年、秋田県大曲市(現大仙市)生まれ。千葉大卒。相撲、格闘技、サッカー、ゴルフなどを担当。スポーツの取材・生観戦だけでなく、休日は演劇や音楽などのライブを見に行くことを楽しみにしている。

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