“特撮の父”のリアルな歩みに感動

[ 2021年8月20日 17:00 ]

「円谷英二展」が開催中。怪獣映画のコーナーに掲示された迫力満点のポスターは圧巻
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 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】東京・京橋の国立映画アーカイブ展示室で「生誕120年 円谷英二展」が17日に開幕した。日本初の「特技監督」として数々の特撮映画や怪獣映画を手掛け、「特撮の父」「特撮の神様」とも称される偉人。「ゴジラ」や「ウルトラマン」シリーズは老若男女問わず不朽の人気を誇り、日本の映像史に深く刻まれている。

 その69年の生涯を紹介する企画。プレス向けに13日に開かれた説明会に参加し、一足先に展覧会の魅力に触れた。「若き映画キャメラマンとして」「特撮への志」「東宝特撮の時代」「円谷プロの創設」の4章で構成され、約130点の資料はどれもが貴重なものだった。

 1901年の七夕に福島県須賀川市で産声をあげた円谷氏はパイロットを目指して上京したが、その後に映画界入り。京都の松竹下加茂撮影所で本格的にカメラマンとして活動をスタートさせた。母親セイさんに抱かれた1歳児の写真も展示されているが、セイさんが超美人。これには目を奪われた。

 「狂った一頁」(1926年)、「稚児の剣法」「乱軍」(27年)、「風雲城史」(28年)など手掛けた作品の写真やポスターが並ぶほか、市丸を主演に据えた唯一の監督劇映画「小唄磔 鳥追お市」(36年)の資料などが展示され、熱心な研究家でなければおそらく知らないであろう“特撮以前”の仕事ぶりが浮き彫りになる。

 円谷氏が特撮に目覚めたのは33年公開の米映画「キング・コング」だったという。刺激を受け、合成技術など研究に没入。その成果が原節子が出演した日独合作の「新しき土」(37年)や山本嘉次郎監督の「ハワイ・マレー沖海戦」(42年)などに現れる。

 そして54年の「ゴジラ」撮影時のスナップやスチール、61年の「モスラ」の8枚組の巨大ポスターなど、怪獣好きにはたまらないコーナーも待ち受ける。「ゴジラ」では本多猪四郎監督、田中友幸プロデューサーとの3ショット写真が感慨深く、「モスラ」では香川京子(89)とスタッフたちとのスナップ写真が目を引く。当時、怪獣映画に出演することを拒否する女優が多かったそうだが、香川は意に介しなかったどころか、記念写真に収まって太陽のような笑顔を咲かせている。溝口健二、小津安二郎、黒澤明といった巨匠にも愛された大女優の人柄に触れて感慨深いものがある。

 63年に円谷特技プロダクション(現・円谷プロダクション)を設立してからは66年に始まる「ウルトラQ」をはじめ、「ウルトラマン」シリーズなどを中心に特撮番組で一世を風靡(び)した。「ウルトラQ」は毎週月曜日の深夜にNHK・BSプレミアムで再放送中。8月16日には「宇宙司令M774」が放送されたが、宇宙人役で登場した水木恵子という女優さんの美しさにため息が出た。いま何をしているのだろう?資料が乏しい。

 円谷氏は「ニッポン・ヒコーキ野郎」という企画を温めていたが、残念ながら実現することなく70年に息を引き取った。絶筆の日記も展示されているが、几帳面な文字で書かれた「復帰したいと思ふ」の文面は胸に迫るものがある。

 11月23日までの会期中には、円谷氏がカメラマンを務めた実写映画「かぐや姫」(35年)の上映会も9月4、5日に実施される。英国でフィルムが発見された作品。展示会場でもダイジェスト映像が流されていた。

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2021年8月20日のニュース