「エール」藤堂先生の手紙は森山直太朗の直筆「1人に向けた曲」の台詞など無二の説得力 ネット連日の涙

[ 2020年10月15日 08:15 ]

「エール」森山直太朗インタビュー

連続テレビ小説「エール」第89話。藤堂先生がしたためた妻・昌子への手紙は、森山直太朗の直筆(C)NHK
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 俳優の窪田正孝(32)が主演を務めるNHK連続テレビ小説「エール」(月~土曜前8・00、土曜は1週間振り返り)は15日、第89話が放送され、シンガー・ソングライターの森山直太朗(44)演じる主人公・古山裕一(窪田)の恩師・藤堂先生が戦地で教え子に託した妻・昌子(堀内敬子)宛の手紙が届けられた。藤堂先生の妻への愛に、インターネット上には悲しみと涙に暮れる視聴者が続出。2日連続の「藤堂先生ロス」が広がった。森山に手紙のシーンなどの舞台裏を聞いた。裕一の才能を見いだした音楽の先生に、本職の森山を起用。ドラマ全体や藤堂先生のキャラクターに無二の説得力が生まれた。

 SNS上には「朝から涙腺崩壊」「今日も目が腫れるやつだ」「藤堂先生…今日も泣けます」「先生の遺書、奥さんへのラブレターじゃん…なんて悲しい最後のラブレター」「昌子さん、やっとのお相手だったのに」「もし郵送していたら検閲で真っ黒になってたかもなぁ…藤堂先生のこの手紙」「藤堂夫婦、ドラマ内でそこまでちゃんと描かれていないのに2人の絆がしっかり見えて泣く。ホント号泣」などの書き込みが相次いだ。

 朝ドラ通算102作目。男性主演は2014年後期「マッサン」の玉山鉄二(40)以来、約6年ぶり。モデルは全国高等学校野球選手権大会の歌「栄冠は君に輝く」などで知られ、昭和の音楽史を代表する作曲家・古関裕而(こせき・ゆうじ)氏(1909―1989)と、妻で歌手としても活躍した金子(きんこ)氏。昭和という激動の時代を舞台に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田)と妻・関内音(二階堂ふみ)の夫婦愛を描く。

 第89話は、裕一(窪田)は音楽慰問から帰国。その足で戦死した藤堂先生(森山)から託された手紙を妻・昌子(堀内敬子)に届けるため、故郷・福島に向かう…という展開。

 (※以下、ネタバレ有)

 <藤堂家の居間>

 藤堂先生の声「君がこの手紙を読んでいるということは、もう僕はこの世にはいないということだ。君と憲太にもう会えないなんて、とても寂しい。昔から僕はどこか冷めた部分を持った人間だった。自分の気持ちを素直に出すことが不得手だった。そんな僕を変えてくれたのは君だ。君を知るにつれ、その明るさ、真っすぐさに、僕の殻は溶けていった。残していくこと、心から謝る。君が好きだった。愛していた。ありがとう。僕の人生に現れてくれて。君に会いたい。藤堂清晴」

 裕一「先生は、僕を車の下に隠してくれて…すぐそこで撃たれました。たぶん…僕を守ろうとしてくれたんじゃないかって思います」

 昌子「そう。あの人、あなたのごと、本当に好きだった。きっと自分の人生、託してたのね。幸せだったなぁ。楽しかった。もう、あんな日、還ってこない。会いだい。もう一度、会いだい」

 森山は声を別撮り。「台本を読んだ時、この昌子さんへの手紙は僕が直筆で書いた方がいいと感覚的に思い、(チーフ演出の)吉田(照幸)監督に相談したら是非に、と。不遜ながら、自分の手で書きました。(手紙を手に演技した)堀内さんがそのことをご存じかどうかは分からないですけど」と秘話を明かした。

 「藤堂先生と自分は重なる部分がたくさんあるので、昌子さんへの手紙なんですが、1つ1つの言葉たちが自分に向かっているような気がしました。たぶん吉田監督が僕に向けて相当こだわって書き上げたと想像しているんですが、それぐらいビンビン自分に響いてくるものがあって。だから、収録後、あまりに自分がにじみ出ていて『つらいっす』と吉田監督に感想を漏らした覚えがあります」と回想。特に「自分の気持ちを素直に出すことが不得手だった。そんな僕を変えてくれたのは君だ」という言葉が突き刺さったという。

 涙声などにはならず「藤堂先生が戦地でこの手紙を書き上げた時には、もう覚悟ができていて、淡々としていたんじゃないか、と。だから、ただただ音楽をするように、ただただ響きとして読みました」と声だけの演技を振り返った。

 藤堂先生が「暁に祈る」の歌詞に悩む教え子の鉄男(中村蒼)にアドバイスし、出征を明かした第74話(9月24日)の台詞も印象的だった。

 「オレさ、(鉄男が作詞した)『福島行進曲』、好きなんだよ。あれって、たった1人のことを思って自分の気持ちをつづった歌だろ?誰か1人に向けて書かれた曲って、不思議と多くの人の心に刺さるもんだよな。今度は、オレのことを思って書いてみてくれないか?実は、出征することになったんだ。うちの父は軍人でね。若い時には反発していたが、自分も親になってみて、親父の気持ちが分かるようになった。お国のために、立派に役目を果たしてくるよ。歌って、心の支えになるだろ?誰にでも自分にとって大切な曲があるもんだ。もし、村野と古山が作った曲と共に(戦地に)行けたら、こんなに心強いことはない」

 「さくら(独唱)」「夏の終わり」「生きてることが辛いなら」など数々の名曲を生み出している森山は、シンガー・ソングライターとして「誰か1人に向けて書かれた曲って、不思議と多くの人の心に刺さるもんだよな」という台詞をどう感じたのか。

 「『エール』は、こういう歌い手や作り手が敢えて言葉しないこと、言葉にせずに姿勢や活動で示していることが台詞になっていて、結構、過酷なんですよ(笑)。説明が難しいですが、音楽って、ゼロから出来上がる時、めちゃめちゃ個人的なものなんです」と切り出した。

 例えば、2013年リリースのアルバム「自由の限界」に収録された楽曲「どこもかしこも駐車場」。

 「昔からある八百屋さんとかがなくなって、そこが空き地になって、コインパーキングになって、駐車場ばっかりだな、という曲なんですが、そんな個人的に感じたことを今更いちいち口にしないじゃないですか。でも、それって、たぶん社会とか色々なものの縮図だったりすると思うんです。みんなが通り過ぎてしまうような景色(駐車場)を共有することで、聴く人の感情を呼び起こすんじゃないですか。音楽はめちゃめちゃ個人的なところから出発するので、『誰か1人に向けて書かれた曲って、不思議と多くの人の心に刺さるもんだよな』という言葉はある意味、合っています。もっと厳密に言うと、個人を突き詰めていくと、みんなの無意識につながる。だから、大衆音楽は面白い。その反面、1人に向けて書くだけじゃない部分もあるので、基本的には共感している台詞ですが、撮影の時にはすごく慎重に言ったことを思い出しますね」

 森山の起用理由について、制作統括の土屋勝裕チーフプロデューサーは「お芝居うんぬんというよりは、やはり音楽をされている人がいいと考えていました。裕一の音楽の才能を見いだす藤堂先生というキャラクターに説得力が出ますから。あまりドラマには出演されていない森山さんでしたが、その誠実な佇まいに藤堂先生役をお願いしました」と説明。

 藤堂先生の出征は「最初から決まっていたわけではなく、撮影が始まってみると、序盤の子役との絡みなど、森山さんのお芝居にどんどん惹きつけられて、藤堂先生の役割が大きく膨らんでいった結果です」と森山の演技が決め手になったと明かした。

 本職の森山が演じたからこそ、裕一の音楽の才能を見つけ、鉄男、久志(山崎育三郎)の“福島三羽ガラス”を導く藤堂先生は圧倒的なリアリティーを帯びた。

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