「ひよっこ」岡田惠和氏が語る朝ドラの魅力と今後「今、人の生活と一番親和性がある」

[ 2019年3月28日 10:00 ]

脚本家の岡田惠和氏
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 脚本家の岡田惠和氏(60)が書き下ろした2017年前期のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」の続編「ひよっこ2」(25日から4夜連続、後7・30)は28日、最終回を迎える。パート2も心の機微を繊細に描き出し、変わらぬほのぼのとしたタッチで視聴者をわしづかみに。岡田氏は「ある意味、いつまででも書けますね。僕は別に『ひよっこ2』が朝ドラでもよかったんです」とシリーズ化に意欲を示した。折しも4月1日スタートの「なつぞら」(ヒロイン・広瀬すず)は朝ドラ100作目。国民的ドラマ枠の魅力と今後について、3作の朝ドラを生んだ名手・岡田氏に聞いた。

 女優の有村架純(26)がヒロインを務めた「ひよっこ」は朝ドラ通算96作目。ドラマ「イグアナの娘」「ビーチボーイズ」「泣くな、はらちゃん」や映画「いま、会いにゆきます」「世界から猫が消えたなら」「8年越しの花嫁 奇跡の実話」などで知られる岡田氏がオリジナル脚本を執筆。東京五輪が開催された1964年(昭39)から始まり、出稼ぎ先の東京で行方不明になった父・実(沢村一樹)を見つけるため茨城から集団就職で上京した“金の卵”谷田部みね子(有村)が、さまざまな出会いを通して自らの殻を破って成長し、小さな幸せを大切に暮らしていく姿を描いた。

 岡田氏が悪人が登場しない心温まる世界を紡ぎ出し、派手さはなくとも、丹念な日常描写と、それぞれにスピンオフ熱望の声が相次ぐ多彩なキャラクターを造形し、視聴者を魅了。近年多かった朝ドラ王道パターンの「ある職業を目指すヒロイン」「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは異なり、大きな出来事はなくとも、ヒロインが普通の女の子でも、心に染み入るストーリーが静かな感動を呼んだ。全156回を通じた期間平均視聴率は20・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と大台超えをマークした。

 続編は、みね子とヒデ(磯村勇斗)の結婚から2年後の70年(昭45)秋、2人が働く洋食屋「すずふり亭」がある東京・赤坂と奥茨城村を舞台に、愛すべきキャラたちの“近況報告”として、すずふり亭の店主・牧鈴子(宮本信子)の“後任”問題、みね子の妹・ちよ子(宮原和)の大学進学問題などが描かれた。

 岡田作品の続編は01年「ちゅらさん」が03年「ちゅらさん2」(全6話)、04年「ちゅらさん3」(全5話)、07年「ちゅらさん4」(前後編)とシリーズ化。12年「最後から二番目の恋」(フジテレビ)は14年に第2弾「続・最後から二番目の恋」が放送された。「ひよっこ」についても「変な話、今回のパート2は<僕としては、ずっと『ひよっこ』を続けてみたいんですけど>というメッセージ。自分としては『北の国から』とか『渡鬼(渡る世間は鬼ばかり)』みたいなことがやりたいんだと思うんです」と長寿シリーズの名作ドラマの具体名とともに、シリーズ化構想を披露した。

 続編への考え方については「僕は基本的に、テレビドラマを続けていくことに関して、非常に強く興味を持っています。『ひよっこ』に限らず、それは僕の物語の作り方が大抵、怒涛の展開で終わる感じじゃないのと、ちょっと青臭いですが、登場人物たちの人生は続いていくという読後感の作品を書いていきたいと思っているので。続編ができる、できないは別としてですが」と自己分析。「ただ、やっぱり続ける、続けないは自分で決められないので、ある意味、単体勝負はしていて。続くことが前提じゃないので、単体で一度ちゃんと終わらせているという感じはあります」と付け加えた。

 「ひよっこ」には「ある意味、いつまででも書けますね。今回、要請はなかったですが、僕は別に『ひよっこ2』が朝ドラでもよかったんです」と語るほどの愛着。「みんなの役を愛して書けましたし、(劇中4年しか経過しなかったことで)キャラクターたちと一緒に生きた感じがすごくします。各俳優さんの実年齢と役の年齢も、それほど無理なくシンクロしているので、この先、リアルに演じ続けてもらえる素材。続編を見たいドラマがたくさんある中、今回、書かせていただけたのはすごく幸せで、贅沢なことです」と脚本家冥利に尽きるとし、感謝した。

 折しも、4月1日スタートの「なつぞら」は朝ドラ100作目。岡田氏は01年前期「ちゅらさん」、11年前期「おひさま」、17年前期「ひよっこ」と3作も手掛けている。

 「ちゅらさん」の頃は午前8時15分からの放送。住まいが次第に都心から離れ、通勤時間が長くなり、既に家にいない時間帯に。「正直に言うと、朝ドラが少しパワーダウンし始めたといいますか、朝ドラが人の生活リズムに合わなくなってきていました。世の中の空気としては、若い人が見る感じもあまりなかったと思います」と振り返る。事実、「ちゅらさん」が期間平均(全話平均)視聴率22・6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録した後、03年後期~09年後期の13作品は期間平均20%割れ。10年前期「ゲゲゲの女房」から放送時間が午前8時に繰り上がった。

 その後、今や最も見られるドラマ枠に“復活”。「今、人の暮らしと一番親和性のあるドラマが朝ドラになっているんじゃないでしょうか。週1回、来週までのお楽しみというスタイルが、今の時代を生きる実感とやや合わなくなっていると言いますか、待ちたくないと言いますか。そういう意味で言うと、朝ドラは1日に何度も(BSプレミアム、本放送、再放送)やっていますよね。(朝ドラの“復活”は)1周回ったのか、何周回ったのか分からないですが、01年、11年、17年と3度経験した中で大きな変換をすごく感じました」

 そして「もちろん朝ドラは大変で、きついんですが、3度書いたのはやっぱり楽しいから。言ってしまえば、朝ドラはホームドラマ。あまりスペクタクルなことは起こらず、起きてもいいんですが、人の日常を描くもの。そういう意味で言うと、特殊なキャラクターを書くタイプじゃない脚本家としての自分の資質とすごく合っていると思いますし、自分は基本的にセリフ書きだと思っているので、会話劇を作れるおもしろさがあります。3作とも『途中、ストーリーが全く進まない』とよく言われるんですが、自分としては逆にそこが一番の醍醐味。他のドラマだと味わえない充実感があります。その朝ドラが今、非常に元気だということは、すごくうれしく思います」と続けた。

 昨年9月、ホストを務めるNHK FM「岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談議~」(隔週日曜後6・00)で同年前期の朝ドラ「半分、青い。」を手掛けた脚本家・北川悦吏子氏(57)と対談。興味深い“朝ドラトーク”を展開した。

 「半分、青い。」はヒロインが心身ともにボロボロになり、漫画家を辞める展開など「朝ドラという枠を結構、度外視して書いてしまったかもしれません」と語る北川氏に対し、岡田氏は「とはいえ、朝ドラという実態はあってないようなもの。何となく成功作のフォーマットがあって、今回はそれとは違うけれど、それはもう毎回、作り手が更新していかないといけないと思います。じゃないと、みんなが同じ穴を掘っていても厳しい。どこかアップデートしていくんだと思います」と北川氏が挑んだ“異色作”を評した。

 この発言は“朝ドラの未来”を示唆しているように思えた。100作目を迎え、朝ドラは今後、どうなっていくのか。最後に改めて尋ねた。

 「朝ドラだからこうだとか、ヒロインはこうでなきゃみたいなことは、基本的に幻想でしかないと思います。ただ、どんな枠でもそうですが、僕は従来のものを壊したいという発想はありません。朝ドラを楽しんでいる視聴者の皆さんに作品を楽しんでいただきたい。“朝ドラらしさ”というのは、あってないようなものだと思いますが、自分のカラーは当然、出ますよね。例えば『あまちゃん』(13年前期)も従来の朝ドラを壊そうと作ったわけじゃないと思うんです。楽しいものを書いていたら、ああなった。(脚本の)宮藤(官九郎)君のおもちゃ箱はああいう感じだったというだけで。僕も同じで、2017年において、僕が一番楽しく、自信が持って書けたのが『ひよっこ』だったということです。ただ、今の朝ドラは叩かれることもあったり、脚本家としては人生が懸かる作品なので、だからこそ、自分の書きたいものを書くべきで、ルールみたいなものに縛られる必要はないと思うんです。そういう意味で言うと、北川悦吏子が書くヒロインは従来の朝ドラ向きじゃなかったですが、彼女は初志貫徹したので、それはそれでいいんじゃないかと思います。だからといって、それを誰かがマネする必要もありませんしね」

 脚本家がそれぞれにオリジナリティーを発揮していけば、多種多様な作品が生まれ、朝ドラの歴史はカラフルに更新される。その中に、岡田氏の4作目があることを期待したい。

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