古舘伊知郎「下町ロケット」悪役をMC業に活用「もう1回ブレーク(笑)」報ステ挑戦時と同じ「ワクワク」

[ 2018年11月18日 10:00 ]

古舘伊知郎インタビュー

日曜劇場「下町ロケット」に悪役でレギュラー出演、27年ぶりの俳優業が反響を呼んでいる古舘伊知郎(C)TBS
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 フリーアナウンサーの古舘伊知郎(63)がTBS日曜劇場「下町ロケット」(日曜後9・00)にレギュラー出演。1991年のNHK連続テレビ小説「君の名は」以来27年ぶりの俳優業に挑み、反響を呼んでいる。2004年にテレビ朝日「報道ステーション」のキャスターを引き受けた時と同じ心境で「不安があるほど燃える」とオファーを快諾し、未確立のジャンルに飛び込んだ。今回、悪役の演技で学んだ喜怒哀楽の表現方法を生かし、俳優の坂上忍(51)ばりに「僕も司会の方で、もう1回ブレークしますよ(笑)」と手応え。新境地を開く古舘に話を聞いた。

 俳優の阿部寛(54)が主演を務め、経営難に追い込まれた下町の町工場・佃製作所がその技術力により困難を打ち破る様を描き、列島に感動を巻き起こしたエンターテインメント巨編の3年ぶり続編。今回は宇宙から大地へ。農業を営む経理部長・殿村(立川談春)の実家のトラクターをヒントに、佃製作所は自転車・自動車・船舶・鉄道・エスカレーターなどに組み込まれている部品「トランスミッション(変速機)」の開発に挑む。

 古舘が演じるのは、佃製作所の前に立ちはだかるライバル企業、小型エンジンメーカー「ダイダロス」の社長・重田登志行。“安さは一流、技術は二流”をスローガンに、新規の顧客に食い込んで急速に業績を伸ばしている。

 佃製作所が手を組もうとしていたベンチャー企業「ギアゴースト」の社長・伊丹(尾上菊之助)と重田には、浅からぬ因縁があった。伊丹は8年前、日本を代表する大企業「帝国重工」の機械事業部に在籍。業績悪化により、コストカットを任された新部長・的場(神田正輝)とともに“下請け切り”を敢行。重田が社長だった「重田工業」は帝国重工との取引を打ち切られ、倒産に追いやられた。

 重田は伊丹にギアゴースト買収を持ち掛ける。一度は断った伊丹だが、帝国重工時代に自分が機械事業部から総務部に“左遷”されたのは的場が黒幕だったと、重田から聞かれる。真実を知った伊丹は佃(阿部)を裏切り、重田の「ダイダロス」と資本提携を結ぶ。帝国重工への復讐に燃え、伊丹を“ダークサイド”に誘い込んだ重田。第6話(18日)から始まる第2章「ヤタガラス編」は、ヒール役として一層、存在感を増す。

 ――第4話(4日)、伊丹(菊之助)と再会した重田の静かな佇まい、いつもの“マシンガントーク”とは異なる古舘さんの語り口が印象的でした。

 「的場部長(神田)の“鶴の一声”で会社(重田工業)がつぶされた後、2000人の従業員が路頭に迷いました。帝国重工に依存していた中小企業とはいえ、こんな理不尽なね。それを反芻しながらのシーンなので、声のトーンは落ちちゃいますよね。今回のドラマは、とにかく監督の指示通り、謙虚に素直に演じようと思っているんですが、この場面は“テンポアップで”とも言われなかったので、自分なりに声の小ささにこだわってみました。ただ、嫌みを含んだ演技は是正されました。倒産後すぐ会長のオヤジ(中尾彬)が死んだことを伝えると、伊丹は『それは、お気の毒でした』。それを受けた重田の『よく言うよ。けどね、私は君たちに感謝しているんですよ。おかけで自分の才能に気付かせてもらった』というセリフは最初、皮肉を込めたんですが、監督は『嫌みたらしく言いたいのを、グッとこらえて。抑制をかけた分だけ、重田の恨みがにじむので』。ハッと思いましたね。田中(健太)監督は30代後半で、63歳の僕からすれば息子のようなものですが(笑)、年齢は関係ない。もう、その指導にイチコロで『はいっ、はいっ』と豆柴(犬)みたいに調教されています(笑)」

 ――「半沢直樹」「陸王」などの伊與田英徳プロデューサーが「いつも説得力のある言葉を発しておられて素敵だなと思っておりました。誰も見たことのない古舘さんの新たな一面が見えると思います」とオファー。受けた決め手は何だったのですか?

 「49歳の時、『報道ステーション』(テレビ朝日、2004年4月〜16年3月)のキャスターを引き受けた時の心境と似ているんですよ。スポーツ中継、音楽番組、バラエティー番組、NHK紅白歌合戦と、いろいろな番組をやらせていただいて、『トーキングブルース』(トークライブ、1988〜2003年)の舞台にも毎年立たせていただいて、40代後半、しゃべり手として全般的に仕事は制覇したという“のぼせ上がり”がありました。そんな時、報道の話を頂いて。テレ朝の局アナ時代、シフトとして3分間のスポットニュースの原稿を読んだことはありましたが、ニュースショーの司会なんてやったことがないことに気付いて。『何、偉そうにしてんだ』と。『自分には未着手のジャンルがあるじゃないか』と。もちろん『ニュースステーションの久米宏さんの後なんて無理無理』という怖さはありましたが、僕は不安になればなるほど、ワクワクしちゃう、ちょっと変態なところがあるんです(笑)。当時のレギュラー番組を降りてでも『やりてー』と思いました。だから今回も、ドラマは未着手ということで『報ステ』の時と同じ気持ちなんです。理由は単純、何の成長もないですよ(笑)。不安があればあるほど、燃えちゃうんですね」

 ――民放連続ドラマは今回が本格初出演で未着手とはいえ、27年前の朝ドラ「君の名は」(ヒロイン・鈴木京香)など、ドラマは数本出演しています。

 「朝ドラは詩人の本間という役だったんですが、当時はF1実況で海外から帰国した翌日に撮影があったりして。NHKさんには大変申し訳なく、大反省なんですが、セリフも大意はつかめても、例えば『だけどね』が『しかしね』とか細かい部分が正確じゃなかったり、自分なりにシーンを解釈した演技で許していただいたこともありました。それが今回は全く通用しない」

 ――今作の演出は「半沢直樹」「陸王」などの福澤克雄監督と、その愛弟子・田中健太監督。「全く通用しない」というお話で、先ほど、田中監督からは「抑制」の芝居を求められたということでしたが、福澤監督はいかがですか?

 「きょう(取材日の11日)の撮影は福澤監督だったんですが、僕がサラッと演じようと思っていると、監督のアイデアで現場で台本が変わって。今度は抑制が外れて、怒りに震える重田の感情が表に出る。監督は『頭、抱えちまえ』とか、しまいには『笑い飛ばしちまえ』と。両監督に翻弄されて楽しくてしようがないし『ああ、自分の考えは浅はかだった』と。自分の予想が全部、外れるんですから。人間の喜怒哀楽の発露というものは、万華鏡のよう。同じ人でも違ったり、同じ怒りでも笑いながらとか、役者の世界というのは、やっぱり深いんだなぁということを思い知らされるわけですよ。本当に貴重な体験。毎回1シーン1シーン思い知らされます」

 ――未着手のジャンルならではの刺激はありますか?

 「司会者として番組に起用されたら、ディレクターの注文があっても『こういう理由で、こうしよう』と自分の独断が入ってしまう。それが出ないように心掛けてはいるんですが、だから最近『古舘は使いづらい』と、もっぱらの評判で(笑)。『下町ロケット』の現場は初心に戻れるじゃないですか。人間の感情のひだ、人間の心に刻まれた傷をどう表現するか、この歳になって初めて具体的なメソッドを学んでいます。これは、自分のしゃべる仕事に絶対フィードバックしなきゃいけないと思うんですよ。例えば、腹の立った“演技”をしなきゃいけない司会進行だってありますよ。『もう、うるさい!それ、さっきも聞いたから、こっちに行きます!』と声を荒げて他の人に話を振るのもいいし、怒っていても『少し黙っていただけますか』と声のトーンを落として静かに場を回すのもいい。こうやって芝居で学ぶんだなと。だから、お笑い芸人の方々が役者として活躍されたり、俳優の方々の司会がうまかったり。『バイキング』(フジテレビ)の坂上忍君もそう。『そうおっしゃいますけどね』と語気を強めてCMに行ったりしますが、あの感じは役者だから凄いんですよ。アナウンサー出身の司会者は、あそこまで喜怒哀楽を見せられないですから。だから、僕も今回『下町ロケット』をやり切れたら、司会の方で、もう1回ブレークしますよ(笑)」

 ――16年3月に「報道ステーション」を卒業して2年半。この間の活動を振り返って、いかがですか?12月からは約15年ぶりとなる新たなトークライブシリーズ「戯言(ざれごと)」(26〜27日、東京・下北沢の駅前劇場)がスタートします。今後の展望を教えてください。

 「フジテレビの番組(『フルタチさん』『モノシリーのとっておき』)が終わったことは大反省です。ジャーナルな視点も持ったバラエティーに挑戦しましたが、中途半端な面があったことは否めません。例えばトランプ大統領がアメリカとメキシコの国境に壁を作ると言い出した時には、スタジオ収録からオンエアまで10日間あったので、その間にディレクターに現地を歩いてもらい、いい映像も撮れましたが、『今、そちらはどうですか?』とスタジオと絡めない。そうすると、一方的な海外ロケになり、バラエティーなのか、ニュースなのか、視聴者の皆さんを迷子にさせてしまいました。この失敗は生かさなきゃいけない。やっぱり僕は“舌先の万(よろず)屋(何でも屋)”として、それがスポーツプログラムなのか、バラエティーなのか、情報ワイドなのか分かりませんが、テレビの司会業と、マイク1本でお客さんに楽しんでいただくトークライブと、この2本柱を命ある限り続けていきたいというのが正直なところです。そして今回『下町ロケット』に出演させていただいたことで、喜怒哀楽の表現の仕方を少しでも2本柱に生かしたい。『古舘トーキングヒストリー』(テレビ朝日)で“歴史の実況”をやらせていただいていますが(16年=忠臣蔵、18年=本能寺の変)、自分が出演した映画の弁士になってプレミアム試写会を開いてみたいですね」

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