無電柱化と「歩行者ファースト」

[ 2017年2月2日 10:09 ]

東京都の小池百合子知事
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 【小池聡の今日も手探り】小池百合子知事になって初めて編成された東京都の2017年度当初予算案が1月25日に発表された。前面に打ち出された「小池カラー」の一つが、衆院議員時代から取り組み都知事選でも掲げた「無電柱化」だ。

 2016年最後となった12月22日の定例会見。2020年東京五輪・パラリンピックを控え、都政を強力に前に進めていくための具体的道筋を示すものとして、「都民ファーストでつくる“新しい東京”〜2020年に向けた実行プラン〜」が配布された。約400ページにも及び厚さは16ミリほど。ポスト2020まで見据え内容が多岐にわたる中、「私の肝入り」という無電柱化の説明には力が入っていたとの印象を受けた。

 4年間の政策展開で実現する「3つのシティ」で一番目に掲げられた「セーフシティ」。7つの政策の柱で構成されており、最初に取り上げられている「地震に強いまちづくり」の中で無電柱化はトップバッターで登場。まさに一丁目一番地。その推進により、「都市防災機能の強化」「安全で快適な歩行空間の確保」「良好な都市景観の創出」を実現とうたう。

 「都市防災機能の強化」は実感として大いに理解できる。1995年1月の阪神大震災発生日に大阪から神戸を目指した時のこと。大動脈である国道2号線と43号線は渋滞を極め、全く動かない。裏道をとにかく西へと進んだが、行く手はすぐに阻まれた。至る所で電柱が倒れ、道路をふさいでいた。緊急車両であれば、被害の拡大に直結。電力と通信それぞれの集計では4500本、3600本が倒壊した。

 一方、気になる点がある。それは、ガードレールや縁石などで隔てられた歩道が整備されていない道路での無電柱化。道路の端寄りに白い実線が引かれているだけの道路などだ。

 この実線の道路端側、狭い路側帯に電柱があれば、避けようとする歩行者や自転車が車道に膨らむ。ランドセルを背負った児童の列でよく見かけられる光景。無電柱化で車両と接触する確率は軽減でき、早急に着手すべきだ。

 しかし、対向車両とすれ違う際にさほど幅員の余裕がない道路で、電柱が実線あたりに立っている場合はどうか。その存在により自ずとアクセルの踏み具合を抑える、こうした道路はあるものだ。トラックの運転手が「あの道は電柱が邪魔だ」とボヤいているのを聞いたことがある。歩行者らは電柱を避けようと道路端側を通る。

 自戒を込めて言うと、単に電柱をなくすことだけをすれば、車両のスピードが上がる結果になりはしないか。ひとたび事故が起きれば、結果の重大性が増すのは明白だ。東京都は区市町村道への支援にも触れている。交通量がそれなりにある細い抜け道ではより憂慮される。電柱が結果としてガードレール的役割を果たしているような場合は、ソフトコーン、ポールコーンなどと呼ばれる車線分離標を実線に沿って設置するなど何らかの措置が必要だ。

 国土交通省はホームページで、無電柱化の目的として「防災」「景観・観光」と並列で「安全・快適」を挙げ、「(歩行者らの)通行を妨げる電柱」として10点の写真を掲載。「地震に強いまちづくり」の中で「安全で快適な歩行空間の確保」などと触れた程度の東京都に比べれば、歩行者目線が感じられる。

 暴走車両はなくならない。ドライバーのモラルやマナーだけに任せていていいものかどうか。個々の道路事情を考慮した無電柱化へ−。「地震に強いまちづくり」という文脈だけにとらわれず、「歩行者ファースト」の視点を常に持ち合わせていてほしい。(編集委員)

 ◆小池 聡(こいけ・さとる)1965年、東京都生まれ。89年、スポニチ入社。文化社会部所属。趣味は釣り。10数年前にデスク業務に就いた際、日帰り釣行が厳しくなった渓流でのフライフィッシングから海のルアー釣りに転向。基本は岸からターゲットを狙う「陸(おか)っぱり」。

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