いっこく堂 世界初の挑戦 誰もやらなかった腹話術ミュージカル

[ 2015年5月31日 12:00 ]

初主演のミュージカル「ダブル」上演に向け、相棒の「健太くん」と笑顔を見せるいっこく堂

 腹話術師・いっこく堂(52)が主演するミュージカル「ダブル」(スポーツニッポン新聞社主催)が、6月18日から東京・千住のシアター1010で上演される。腹話術でミュージカルに挑戦するという、世界でも初の試み。開幕を前に“妙技”に磨きをかけるいっこく堂に、意気込みを聞いた。

 稽古場でいっこく堂は、ひときわ異彩を放っていた。手には人形。本人が歌ったと思えば、人形が歌う。人形が歌ったと思えば、本人が歌う。その周囲だけ、まるで演芸の稽古場のようだ。

 「和やかで、いい雰囲気の中でやらせていただいています」と居心地は良さそう。ただミュージカルの稽古場としては異様なだけに、共演者は戸惑っているのではと思ったが、「新しいことをやっている感じがして面白いですよ。座長(いっこく堂)はとてもやりやすい環境をつくってくれているし」と話す。その反応を伝えると、「“やりにくいっすね”とは取材の人に言わないでしょ」と笑った。

 演芸の舞台は百戦錬磨だが「腹話術というのは、皆さんの想像以上に喉に負担がかかるんです。その上、かなり声を張って歌わないといけない。けっこう大変ですね」とミュージカルの洗礼を浴びている。一方で歌唱について「こうすればいいかもという発声法は少しずつつかめてきた気がします」と手応えも感じている。

 “革新的”はお手のものだ。いっこく堂の名声を不動にした「衛星中継」の腹話術。口の動きから遅れて声が出てくる妙技は、世間の度肝を抜いた。

 「見せ方がうまくはまったパターン。あの芸自体は、決して新しいというわけではなかったんです」と謙遜。「それより破裂音、パ行とかバ行とかマ行を腹話術に取り入れたのは世界的に驚かれましたね」と話した。

 破裂音は唇を合わせて発音するというのが言語学の常識だが、30代に入ったころ「舌をうまく使えば、唇を動かさなくても出せるかも」と思いつき、挑戦。約4年間、文字通り口から血の出るような特訓をして習得した。

 初めて腹話術に触れたのは中学1年のとき。テレビのニュースで警察官がやっていた素人芸だった。子供ながらにその光景が強烈で「あの人形買って」と両親にねだった。「どこにも売ってない」と言われ、2週間もたたずに腹話術熱は冷めた。

 中3になると「西田敏行さんのような役者になりたい」と新たな夢を抱いた。「そのためには度胸をつけないと、と思った」といい、人前で物まねや声帯模写をするようになった。才能はすぐに開花。地元の沖縄でも、上京してからも、何度もアマチュア大会で賞を獲った。「だけど、何のために上京したんだと思い直して」と、22歳のときに劇団民芸の門を叩いた。

 やっと訪れた念願の役者生活。しかし、“ピン芸人”の自由な表現に慣れてしまった体に、劇団員の演技は窮屈だった。6年目で休団し、1人で芸をやっていく決意をした。その時思い出したのが、あの腹話術への憧れだった。「中1の一瞬だけでしたが、夢中になった熱がよみがえったんですよね。そして、急いで図書館に行ったんです」と笑う。

 図書館?

 「“誰にもできる腹話術”という本を借りた。もう絶版ですけどね。これが僕の師匠」と話す。

 超絶な腹話術芸は、完全に独学だった。ただ、何時間も練習に没頭できる根気は劇団での忍耐が生きた。芸を身につけた後のパフォーマンス構成も、劇団での経験が大きな糧となった。

 腹話術師へ至った道に何の後悔もないが、多感だった時代に精力を注いだ役者への思いも強い。今回はミュージカル俳優としてのステージでもある。いっこく堂が演じる腹話術師は二重人格で、もうひとつの人格が人形という設定。「どちらも僕が演じているのですが、誰か別の人間が健太を演じている、と錯覚させるような演技ができたら成功かな、と思っています」と目を輝かせた。

 ◆いっこく堂(いっこくどう)本名玉城一石(たまき・いっこく)。1963年(昭38)5月27日、沖縄県生まれの52歳。86年に劇団民芸で役者デビュー。92年から腹話術を始め、98年頃からテレビに出始め話題を集める。00年に米ラスベガスでの「世界腹話術フェスティバル」に出場。03年には米ツアー、05年アジアツアー、06年欧州ツアーと世界を股にかけて活躍。1メートル75、血液型A。

 ◇ダブル 太平洋戦争目前、横浜にある劇場・湊座は腹話術師の宗次郎(いっこく堂)が大人気で、いつも大入り満員だった。その興行に女優の桃子(愛華みれ)が加入。宗次郎は桃子を好きになるが、同時に宗次郎のもうひとつの人格である人形の健太も桃子に夢中になる。だが、桃子の真の目的は、軍部の命令による潜入捜査だった。作・演出は高野克己氏。元光GENJIの内海光司(47)らが共演。

 ◇チケット 6月18~21日で6公演。全席指定7500円。予約はシアター1010チケットセンター=(電)03(5244)1011、キョードー東京=(電)0570(550)799=ほか。

続きを表示

この記事のフォト

2015年5月31日のニュース