押尾被告側の証人、救命の可能性「極めて低い」

[ 2010年9月14日 06:00 ]

押尾学被告を乗せたと見られる護送バスが東京地裁に入る

 【押尾学被告第6回公判】押尾被告の裁判員裁判で弁護側証人として出廷した救命救急医は、田中香織さんの救命の可能性について「極めて低い」と証言した。「本件で唯一確かなのは薬物の血中濃度」とし、田中さんのMDMAの濃度が異常に高かった点を指摘。これまでの公判に検察側証人として出廷した救急医2人の「100%近く助けられた」という証言を真っ向から否定した。

 押尾被告にとっては“地獄に仏”だった。
 証人の救急医は「田中さんの容体を分かっているのは押尾さんだけ。その押尾さんも薬物の影響下であいまい」とし、「唯一確かなのは薬物の血中濃度。血中濃度はうそをつかない」と断言した。死亡鑑定書や医師の調書によると、田中さんの薬物(MDMA)の血中濃度は8~13マイクログラム/グラム。この救急医によると、通常の中毒患者は1~2、致死量は3・1マイクログラム/グラムというデータもあり「田中さんの血中濃度で過去に助かった人はいません。救命の可能性は極めて低い」と証言した。
 同救急医は日本救急医学会で指導医を務めるかたわら、日本中毒学会の評議員でもある薬物中毒の専門家。検察側証人として出廷した救急医について「薬物中毒の専門ではない」とその証言を疑問視。「致死量の3倍以上のんだのに助かるというのは学問的にどうなのかと思った」と証言台に立った理由を説明した。
 裁判長の「救急隊が死亡前に田中さんに接触したらどうだったか」の質問には「濃度を下げる手段はない。それは病院に行っても同じ」と返答。いち早く119番すれば救命できたかどうかが最大の焦点の公判で、極めて重要な証言をした。
 また押尾被告が田中さんに心臓マッサージを施した点についても「日本で人が倒れたところに居合わせた人が心臓マッサージなどの手当てをするのは20~30%程度。評価されてもいいのでは」とした。元東京地検公安部長の若狭勝弁護士はこの日の証言について「裁判に大きな影響を与える。前回までは検察側が大きく押していたが、この証言によって微妙になってきた」と話した。
 同救急医は「(救命措置を)一つでもしたならば、私がお釈迦(しゃか)さまならカンダタにクモの糸を1本垂らすと思う」と、芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」で地獄に落ちた悪党を引き合いに出した。獄中で「地獄の入り口から戻ってやる」とノートに書きなぐった押尾被告。ただ、その後の被告人質問で自ら“クモの糸”を切ってしまいそうになっている。

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2010年9月14日のニュース