天国に向かう横田慎太郎さんが感謝を伝えに…訃報直前にあった仲間たちの不思議な目覚め

[ 2023年12月29日 12:00 ]

横田慎太郎さん(右)と談笑する北條史也内野手
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 枕元にある時計は「5時30分」と表示されていた。普段から目覚めは早い方でも5時台はあまりにも早すぎる。今思えば…。普段ではあり得ない時間に私のスマホが鳴ったのはその数十分後だった。

 「慎太郎が息を引き取りました」。

 元阪神・横田慎太郎さんの訃報を姉・真子さんから聞いた。亡くなったのは、7月18日の5時42分だった。しばらく放心状態だったが、自宅で必死に心を落ち着かせて私は鳴尾浜球場へ取材に向かった。かつての同僚が突然の別れに胸を痛めながら言葉を紡いでいた。そんな中、ある選手の発したコメントを聞いて驚きを隠せなかった。16年の開幕戦で横田さんと1、2番コンビを組んだ高山が「5時20分くらいに目覚めたんですよ。最後にあいさつにきてくれたのかな」と明かしていた。私と同じ不思議な目覚めだったそうだ。

 その後、もしやと思い練習を終えて愛車へ乗り込もとする板山を呼び止めた。「ごめん、変なこと聞くけど…」と切り出すと板山はうなずいた。「僕もです。その時間に目が覚めてました」。高山も、板山も、そして私も治療を終えて療養に入った横田さんを見舞ったメンバーだった。

 ならばもう間違いなかった。後日もう1人、横田さんの見舞いに訪れていた北條になかば確信を込めて聞いた。「あの日、早朝に起きてなかった?」。事情を説明すると北條は「え?マジすか。今、鳥肌立ってます」と言いながら「僕もなぜか起きてたんですよ、あの日の朝」と記憶を蘇らせた。現役時代、弟のように横田さんを可愛がり、選手寮でのルール、プロでのしきたりを教えた北條は「ヨコ、あいさつに来てくれたんですね。これは間違いないですね」と頬を緩ませた。

 タイガースのユニホームを着ていた時からどんな時もあいさつや、感謝を伝えることを忘れなかった横田さんらしい「別れのあいさつ」。母・まなみさんも「そんなことがあったんですね…。高山さん、板山さん、北條さん…慎太郎はみなさんにちゃんと御礼を言いに行ってたんですね」と声を震わせた。

 奇しくも、高山、板山、北條の3選手は今季限りでタイガースのユニホームを脱ぎ、新天地で来季から一歩を踏み出す。プレーする者は胸のどこかに横田さんの思いを刻んで戦う。そして、ペンを持つ私はこれからも横田慎太郎という人間を書き記し、伝えていく。2023年が終わっても変わらない横田さんと交わしたそれぞれの約束だ。(記者コラム・遠藤 礼)

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