【エンジョイベースボールの源流(1)】慶応・森林監督が指導者を志した時から疑問を抱いた勝利至上主義

[ 2023年10月23日 08:00 ]

対談した慶応・森林監督(右)と慶大野球部OB会・後藤会長
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 今夏の甲子園で107年ぶりの全国制覇を成し遂げた慶応・森林貴彦監督(50)と慶大野球部OB会・後藤寿彦会長(70)の対談がこのほど行われた。森林監督は同校野球部の代名詞でもある「エンジョイベースボール」の源流を改めて説明。その上で指導者を志した当時から、野球界を取り巻く「勝利至上主義」に疑問を抱いていたと明かした。(構成・伊藤 幸男)

慶応・森林監督、慶大野球部・後藤OB会長対談(1)

 森林 勝利至上とか、勝たないと認められないとか、勝ったら逆に言うと何でも正しいみたいなものがあって、それで犠牲になる部分はやはり大きいなというのを感じてきて…。プロ野球なら勝利至上でいいかもしれないけど、高校生とか中学生の世代がスポーツにかかわる時に、指導者側が勝利至上に陥ると、選手はやはり目の前の試合を勝ちにいくことが全てだと思うんで。指導者もスポーツですから勝利を目指すんですが、勝利だけ見ればとか、勝つためには手段を選ばないとか、選手の酷使もいとわないとか、そういうところは行き過ぎだとずっと感じていたので、それに一石を投じるようなことができたらいいと思います。そういう活動を、勝利至上ではなくて私は「成長至上」と言うんですけど、選手を成長させながら、でもそれが最後は勝利につながるんだというような活動をして、今までの勝利至上に一石を投じることができればと思ってやっていたので。今回(甲子園で)優勝させてもらって少しは発言権があると思うので、何か変えていける発信ができたらと思っています。

 後藤 その問題に関連して自主性がよく議論される。選手は基本的な技術もなく「考えていいんですか」となるよね。

 森林 どうしても強制するのか自主性なのかと、シーソーになっちゃうけど、現場にいればわかりますけど、案配(あんばい)ですよね。特に1年生で入ってきた時には基本的な技術を教え込むとか、チームで共通の、例えばバットの構え方をこうしようとか、グラフの出し方をこうやってほしいとか、基礎の部分を最初にできるだけ教え込むとか、もっと強く言えば叩き込むみたいな部分は当然ウチもあります。ただ高校野球の2年半で結果を出させ、となった時に、一般的には自分で考える余地を与えず、指導者の言うことに從うべきという形が多いとは思うんですけど。それを強制する、叩き込む、やらせるという部分と、ここから先は自分でまず考えてほしいとか、そういう部分とのバランスだと思うので、うちの場合は自分で考えるとか自主性っていう部分が他のチームよりはやや多いと…。ただ全部自分で考えるなんて無責任なことは逆に放任になっちゃうので、それはできませんから、バランスの問題だと思うんですね。

 ◇森林 貴彦(もりばやし・たかひこ)1973年(昭48)6月7日生まれ、東京都渋谷区出身の50歳。慶応では遊撃手としてプレーし、慶大に進み母校のコーチを務める。卒業後はNTT入社後、指導者を目指し筑波大大学院に進学し、つくば秀英(茨城)のコーチも務めた。02年慶応幼稚舎の教員となり、慶応のコーチに就任。12年から助監督、15年8月に監督就任。春夏4度目の甲子園出場。高3の長男、小6の次男の2児の父。

 ◇後藤 寿彦(ごとう・としひこ)1953年(昭28)5月14日生まれ、岐阜県出身の70歳。慶大在学時の75年春、東京六大学リーグで三冠王を獲得。社会人の三菱重工三原で活躍後、94年から母校監督に就任した。01年春まで指揮を執り、リーグ優勝3度、00年には明治神宮野球大会制覇。教え子には高橋由伸氏(元巨人監督)ら。現在は朝日大学野球部総監督。

【(2)はエンジョイベースボール編】

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