この夏、悔し涙を流せた幸せ「信じて練習してきてよかった」

[ 2021年9月3日 15:52 ]

<米子松蔭・八頭>9回2死一塁から米子松蔭の代打・徳永琉伽が三振に倒れ、夏が終わる(撮影・中澤 智晴)
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 【君島圭介のスポーツと人間】2勝2敗で迎えたエース対決で、その2年生は散った。直前に腰を痛めていたが、歯を食いしばって「全中優勝」の目標を掲げたチームの思いを背負って戦った。全国大会の初戦敗退が決まり、泣きじゃくる2年生エースに、控えの3年生が歩み寄って声を掛けたという。

 「このチームは俺たちの世代なんだよ。俺たち3年生がもっと強ければ勝てたかもしれない」

 コロナ禍で遠征メンバーの人数は限られていた。その3年生はボール拾い、用具運び、荷物番と誰よりも多くの仕事を連日35度を超える炎天下でこなした。予選から1試合も出場できなかったが、誰よりも汗を流していた。声を賭けた3年生も掛けられた2年生も素晴らしい体験をしたと思う。

 甲子園アルプス席での演奏が夢だった吹奏楽部のある高校生は、昨年の大会中止に心が折れそうになった。センバツも応援中止。彼女から嬉しいメールが届いた。

 「この夏の甲子園、無事に野球部は出場を決め、吹奏楽部も50人の人数制限はありますが入れることになりました。今となって、ここまで信じて練習してきてよかったなと思っています。高校生活最後の夏、全力で楽しみたいと思います」

 大会は複数の陽性者が出たことで、途中から吹奏楽部の応援が中止になった。1曲でもいい。夢がかなえられたことを願いたい。

 東海大相模、星稜などの県大会出場辞退。米子松蔭の「不戦敗」からの大会復帰。東北学院、宮崎商は敗戦を味わうことなく甲子園を去った。野球に限らず、この夏はあらゆる競技大会で同じドラマが起きた。それでも大会がない空虚さとは意味が違う。

 コロナ禍で大会を運営する是非はある。感染拡大は医療従事者への負担を増やし、多くの人命が危険にさらす。保護者としてある全国大会に同行した私は今も健康観察のメールを運営本部に送り続けている。運良く身近な大会出場者に感染者は出ていないが、開催して下さった自治体に新たな新型コロナ陽性者が出ると胸が痛む。

 富山県のある高校運動部のキャプテンがSNSに投稿した切実な思いが地元テレビ局に取り上げられ、話題となった。部活動が制限される状況の中、「外で遊んでいる人たちお願いです。協力してください。自粛しましょう。マスクしましょう」と訴えた。

 勝者などほんのひとつまみ、ほとんどは敗者として悔し涙で終わる。だが、彼らには涙を流す権利がある。何度でも言いたい。スポーツでも文化活動でも勉強でも子どもたちの「学び」を止めてはいけない。どんな困難な状況でも、この国の子どもたちにはたくさんの悔し涙を流して欲しい。(専門委員)

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2021年9月3日のニュース