日本野球界に大きな一歩 野球はコンテストではない! イチロー氏の遺伝子引き継がれる

[ 2020年12月4日 19:03 ]

<イチロー氏智弁和歌山指導>智弁和歌山高の選手とともにランニングするイチローさん(左端)(代表撮影)
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 昨年3月に現役を引退したイチロー氏(47=マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が4日、甲子園で春1度、夏2度の優勝を誇る高校野球の強豪校・智弁和歌山で、選手指導を行った。指導は2日から始まり、3日目となったこの日で今回の指導は終了。今後については現状未定だ。

 思い起こせば、昨年3月の現役引退会見で、イチロー氏はアマチュア指導へ向けた確固たる思いを口にしている。

 「まあ、プロの選手、プロの世界というよりも、アマチュアとプロの壁というのが日本は特殊な形で存在しているので。そういうルールって。どうなんだろうか。今までややこしいじゃないですか。例えば、極端に言うと、自分に子供がいたとして、高校生であるとすると、教えられなかったりというルールですよね。そういうのって、変な感じじゃないですか。きょうをもって“元イチロー”になるので、それは小さな子供なのか、中学生になのか、高校生になのか、大学生になるのかはわからないですけど、そこには興味がありますね」

 イチロー氏が言う「特殊な壁」とは、プロ・アマ問題として、長年、日本野球界を隔てる形で横たわってきた。プロがアマチュアを指導するには、大きなハードルが存在するという“ややこしい”壁だ。ただ、自身の監督就任には全く意欲を見せなかったイチロー氏も、アマチュアの指導に対しては、当時から思いがあったことが分かる。

 壁を乗り越えるべく、徐々に動き出していた。学生野球の指導には、原則としてプロ球団を退団する必要がある。だが、イチロー氏の野球界への功績の大きさや、アマ選手の獲得に携わる立場でないことを踏まえ、日本学生野球協会は特例を容認。イチロー氏は昨年12月に学生野球資格回復制度の研修会を受講し、今年2月に資格を回復した。マリナーズでの活動がないオフシーズンに限り、高校生や大学生への指導が可能となっていた。

 イチロー氏は11月26日に神戸市で行われた新聞大会の記念講演で、高校野球の魅力にも言及。司会者から「近いうちに学生に野球を教える姿は見られるか?」と問われると「見られると思います。引退はしたが、野球人として何かお返しできたら」と前向きに話していた。その際、野球の未来を危惧する思いも打ち明けていた。

 「最近、高校野球を見るんです。“野球”をやっているんですよ。普段、メジャーリーグをよく見る。メジャーリーグは今“コンテスト”をやっているんですよ。どこまで飛ばすか。野球とは言えない。どうやって点を取るか。そういう風にはとても見えない。高校野球には、それが詰まっている。頭を使います。ファンは野球を見たがっている。“コンテスト”を見たいわけじゃない。そういう意味で、高校野球はめちゃくちゃ面白いです。プロに入る前段階の選手の野球にすごく興味がありますね」

 打球方向など緻密な分析が進む大リーグでは、極端な守備シフトを敷くことが通常となってきた。そこで出てきた打者側の発想が、守備側のいないところまで飛ばすこと。つまり「フライボール革命」だ。イチロー氏は、この「コンテスト」が日本野球にも影響を及ぼさないか、危惧しているように感じる。

 引退会見ではこうも言っていた。「日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんて全くなくて、日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいと思います。アメリカのこの流れは止まらないので。せめて日本の野球は、決して変わってはいけないこと、大切にしなければいけないことを大切にしてほしい」

 この日の智弁和歌山での第一歩は、“野球”を守るというイチロー氏の意志が込められている。その遺伝子は、脈々と日本野球界に根付くだろう。

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