【猛虎最高の瞬間(2)】藤村富美男 現役最終年に輝いた打点「1」

[ 2020年5月26日 08:00 ]

現役時代の藤村富美男のバッティングフォーム
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 阪神は今年、球団創設85周年を迎えた。その間、あまたの名選手たちのプレーが歴史を彩り、伝統を紡いできた。創刊72年目のスポニチでは、過去の大阪紙面を掘り起こし偉大な猛虎戦士たちが阪神で打ち立てた「猛虎最高記録」と、その瞬間に迫る。第2回は藤村富美男内野手(当時42)が球団最多1126打点を記録した1958年9月18日の中日戦にスポットライトを当てる。

【1958年9月18日 阪神2―3中日】
 「ミスタータイガース」は、その晩年も抜群の存在感を誇っていた。敗戦翌日の紙面を開くと、2面トップで阪神―中日戦(甲子園)が扱われていた。メイン見出しは2失点完投の中日・杉下茂に譲ったが、サブ見出しは「藤村の初打点空し」。この「初打点」を挙げた打席が「猛虎最高の瞬間」だった。

 2点を追う9回だ。阪神は4番・田宮謙次郎の右前打を皮切りに得点圏まで走者を進めた。そして2死から8番・戸梶正夫の代打としてコールされたのが藤村富美男だった。すでに42歳に達していた大ベテランは右前適時打を放ち、ベンチの期待に応えた。土壇場で1点差に迫る得点を生み出した、この打点は藤村富のシーズン初打点であり、現役最後の打点となった。

 試合後、藤村富はスポニチの取材に「とにかくなんでもかでも打つてやろうと思つていたんだ。カウントも追込まれていたしね。内角に食込んでくるボールだつたと思う。別に右翼に狙つていたわけではない。ミートもいいことはなかった。根つこに当たったんだから。今シーズン初の打点だものな、そりや嬉しいさ……(原文まま)」と振り返った。最後のひと言には、どこか哀愁が漂った。

 球団草創期の大スター。全盛期には「物干しざお」と形容された長尺バットを振るって「ダイナマイト打線」の中核を担った強打者も、寄る年波には、あらがえなかった。

 40歳を迎えた56年限りで一度は現役を引退した。だが、1年間の監督専任を挟み球団から現役復帰要請を受けたため、このシーズンから現役復帰。とはいえ、初出場は開幕16試合目の代打で三振、同63試合目の代打でようやく初安打など、あくまで「代打要員」の位置づけだった。8月下旬から数試合の先発機会にも恵まれたが、本来の姿には遠かった。

 結局、同年オフに2度目の現役引退を決断した藤村富の最終シーズンは24試合出場で打率・115、0本塁打、1打点。一見、寂しく映る「1打点」。これこそが、今も球団最多記録に君臨する1126打点目だった。(惟任 貴信)

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