自分の「言葉」を持つ新人・近本 プロの壁を乗り越えられるか

[ 2019年7月8日 09:30 ]

阪神・近本(撮影・坂田 高浩)
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 連日試合があるプロ野球界では、失敗を引きづることは致命傷になりかねない。先のプレーに影響が出るし、その隙にライバルが台頭するからだ。

 阪神担当記者になって4年目。気持ちを上手く切り替えられず、いつのまにか長所を見失い、結果を出せずに苦しむ若手は少なくないと感じている。そんななか、ひと味違う選手が入ってきた。ドラフト1位ルーキー・近本光司だ。

 開幕から主に1番打者としてチームをけん引し、「マイナビオールスターゲーム2019」にファン投票で選出されるほどの活躍を見せている。とにかく速い足。その足を生かした広い守備範囲。170センチと小柄ながらパンチ力を備える(6本塁打)打撃。どれもハイレベルだ。だが、近本の強みは他にもあると感じている。それは『言葉の力』だ。

 象徴的なシーンが最近あった。7月3日のDeNA戦だ。同点の延長11回に先頭で左中間二塁打を放つと、中堅手が打球処理にもたつく間に三塁を陥れ、次打者・糸原の浅い右飛で迷わずタッチアップし、決勝のホームに生還。ヒーローインタビューでこう言った。

 「センターが少し、もたついていたというのと、カットマンの位置を確認した時に、センターがサードに投げたので、いけるところまでいこうと思っていました」

 文字にすると普通なのだが…。ヒーローインタビューでここまで詳しくプレーを解説する選手は少ない。「珍しいな」と記者が思っていると、ネットでも「近本くん語彙力高い」「コメントが賢い」といった驚きの声がいくつか見られた。

 結果が出なかった時でも同じだ。例えば6月20日の楽天戦。2点リードの5回無死一塁の守備で、左中間の飛球を落球。それが同点の2点打につながり、そのまま敗戦した。新人が負けに直結するミスをしたのだから動揺はあっただろう。それでも、試合後に報道陣に対応する姿はいたって冷静だった。

 「イージーミスですよ。そういうところが自分のダメなところ。エラーしたとしても、その後しっかり自分のプレーができるようにしないといけません」

 とてつもないプレッシャーと戦った後にミスについて話したくはないだろう。それでも必ず立ち止まり、いかなる質問にも逃げずに答える。この姿勢に記者が何を感じているかというと、公の場で自分の言葉を発し、良くても悪くても結果という事実を正面から受け入れることで、翌日に向けた気持ちの切り替えができているのではないかということだ。

 そんな近本は6月、91打数16安打の打率・176と苦しんだ。プロで初めてぶちあたったと言える高い壁。非凡な能力の高さと『言葉の力』でどう乗り越えていくのか、注目していきたい。(巻木 周平)

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2019年7月8日のニュース