走塁のスペシャリスト鈴木“戦友”の手袋に秘めた思いとは…

[ 2015年7月9日 08:10 ]

巨人・鈴木の“戦友”とも言えるオレンジ色の走塁手袋

 今季の巨人戦は僅差のまま試合終盤までもつれることが多い。息詰まる展開の中、東京ドームがひときわ大きな歓声に包まれる瞬間がある。走塁のスペシャリスト・鈴木尚広外野手(37)の代走がアナウンスされた時だ。救世主とばかりに背番号12がさっそうとベンチから飛び出すと、球場の雰囲気がガラリと変わる。そして、超人的な走塁で勝利をたぐり寄せる。

 そんな鈴木が「パートナー」と呼んで愛用しているのが蛍光オレンジ色の走塁手袋だ。とにかく目立つ色で、ベンチにいる時から相手バッテリーに重圧を与える。「背番号を見る前にまず注目がいく。視線を感じるね。手袋を着けるとスイッチがオンになる」という。

 身に着け始めたのは06年ごろだが、実はこの色、鈴木が希望したわけではない。「メーカーの方が“一度、派手なの作ってみますか?”と提案してくれたんだ」。それまでは白や黒色を使っていたが「手袋も“ニューオープン”ということで」同年のオープン戦から使い始めた。すると、ファンからも好評で「自分でも意外といいなって思った」と振り返る。

 毎シーズン、1個しか用意せず、同じものを使い続ける。そして、盗塁や走塁で失敗しない限りは洗濯もしない。「失敗したときは心をリセットしないといけない。手袋もクリーニングすれば、触ったときにまた一から新しく次に踏み出そう、と思える」とこだわりを語る。今季は7月7日時点で、7度試みた盗塁はすべて成功。まだ、洗濯する機会は訪れていないが「梅雨時や夏場は臭いが気になってくるので、乾かしたりして消臭してる」とおどける。

 一年間、ずっと使い続けると、手袋のふちの部分がほつれてくるという。しかし、これが鈴木の自信につながっている。「それだけ自分が何回も大事な場面を経験している証拠。積み重ねてきたものを感じるから、たまらなくいいなぁって思うんだ」。鈴木にとっては長いシーズンを戦い抜く「戦友」でもあるのだ。

 今季、プロ19年目で初めて球宴に選出された。阪神・川藤幸三の記録に並ぶ最も遅咲きの初出場だ。球宴用の走塁手袋を準備しつつも、シーズン中と同じ手袋を使うつもりだという。「この手袋のおかげで出場させてもらえるからね」。日本一の「走り屋」が初めて踏みしめる特別な舞台。驚異的な走塁を生み出す「神の足」だけでなく、オレンジ色の「神の手」にも注目してもらいたい。(青木 貴紀)

 ◆青木 貴紀(あおき・たかのり)1986年(昭61)9月24日、新潟県生まれの28歳。筑波大卒。2013年スポニチ入社。野球遊軍を経て、14年から巨人を担当。学生時代は陸上競技の短距離に打ち込み、100メートルの自己記録は10秒83。

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