元巨人・十川雄二 かつてもだえ苦しんだ野球が縁でつながった人生

[ 2015年5月29日 10:30 ]

現在は焼肉店「ベイサイド東京牧場」でマネジャー的な立場で働いている十川雄二

 巨人を5年で解雇され、出版社に就職した十川雄二。「10打席10安打」を求められる過酷な草野球生活を経て、十川は再び人生の分岐点を迎えていた。奇妙な「第二の人生」を歩む元プロ野球選手を追う短期集中連載最終回。(敬称略)

【第1回 第2回】

 異常なまでに野球が強い出版社、日本医療企画で勤めて8年。30歳になった元プロ野球選手・十川雄二は人生の岐路に立っていた。巨人時代の同僚で、仲のよかった先輩・小野剛から「仕事に協力してくれないか?」と声を掛けられていたのだ。

 小野は巨人をわずか2年で解雇された後、イタリアのプロ野球・セリエAでプレー。帰国後は西武にテスト入団し、3年間で12試合に登板した。一風変わったプロ野球人生だったが、引退後もまた急展開だった。2006年、十川と同じ年に引退すると、会社員を経てマネジメント会社を設立。他にも不動産会社やホテルを経営するなど、実業家として成功していた。今年からBCリーグにできた新球団・福島ホープスのGMも務めている。

 「小野さんには『いずれプロ野球チームを持ちたい』という夢があるんです。その夢に協力してくれないか? と言われて、力になりたいと思いました。日本医療企画でも営業で大きな仕事を任せてもらえたり、やりがいは感じていたのですが、退社させていただくことにしました。チームも(東京健保総合大会で)2回優勝させたし、恩返しはできたのかなと」

 十川は2015年に入って日本医療企画を退社、小野が石井貴(元西武)と共同経営する焼肉店「ベイサイド東京牧場」(東京都品川区)で「企画・営業主任」の役職を得て働き始めた。マネージャー的な立場として、毎日店に顔を出している。

 「ぜひ野球ファンの方にご来店いただきたいですね。プロ野球の試合がある日は店のスクリーンで映像を流しますし、プロ野球選手もよく食べに来ます。この前は巨人のチームメイトだった内海さん(哲也)が食べに来てくれました」

 経営者である石井貴が店で肉を焼きながら、プロ野球をテレビ観戦していることもよくあるという。プロ野球選手御用達の店とはいえ、値段よりも肉の味で勝負。店内は吹き抜けになっていて開放感があり、心地いい空間で焼肉を味わうことができる。

 また、仕事とは別にライフワークになっているのが、少年野球の指導だ。これも巨人時代の先輩である前田幸長が会長を務める都筑中央ボーイズの小学部から請われて、コーチを務めている。

 「同い年の都築克幸(元中日)が監督で、僕がコーチです。最初は0対20で負けるようなチームでしたけど少しずつ強くなっていって、3年目の2013年には全国制覇できました。勝つことにはこだわっています。勝つことで子どもたちは野球が楽しくなり、うまくなっていくし、保護者も喜ぶ。前田さんもことあるごとに『負けて得るものは何もない。負けグセがつくだけだ』と言っています」

 プロ通算78勝110敗。いくら好投しても打線の援護が乏しく、2ケタ勝利が1回もない代わりに2ケタ敗戦を7回も記録している前田だからこそ、その言葉には実感が伴う。そして十川は子どもたちに「勝つ野球」を伝え続けている。

 かつては妻に「やめたら」と促されるほどに悶え苦しんだ野球。しかし、その野球が縁を呼んで、十川の奇妙な野球人生は今もつながっている。何ともうれしい皮肉だろう。

 「3歳の長男がいるんですけど、将来は野球をさせたいですね。もう105センチもあって、3月生まれなのに保育園で一番デカイんです。野球は体が大きいほうがトクなことも多いですから、今から楽しみですよ!」

 ◆ベイサイド東京牧場 住所:東京都品川区北品川1丁目12?7(JR品川駅 徒歩10分/京急本線北品川駅 徒歩5分)電話:03-3458-3229

 ◆菊地選手(きくちせんしゅ) 1982年生まれ、東京都出身。野球専門誌『野球太郎』編集部員を経て、フリーの編集兼ライターに。プレーヤー視点からの取材をモットーとする。著書に『野球部あるある』シリーズがある。

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