山下美夢有 パリの悲劇からウェールズの歓喜へ もがいてはい上がった358日
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【福永稔彦のアンプレアブル】女子ゴルフのAIG全英女子オープンで山下美夢有(24=花王)が米ツアー初優勝、日本人6人目(7度目)のメジャー制覇を果たした。
1打差の単独首位で出た最終日は前半で3バーディーを奪ってリードを広げ、13番パー5で8メートルのパーパットを沈めるなど何度もピンチを切り抜け、トップを譲ることなく逃げ切った。1年前とは見違えるような、貫禄さえ漂わせる勝ちっちぷりだった。
昨夏、山下は同じ欧州で失意を味わった。2024年8月10日、パリ五輪女子ゴルフの最終ラウンドがパリ郊外のル・ゴルフ・ナショナルで行われた。
首位と2打差の3位から出た山下は一時首位に立つなど金メダル争いに加わった。悲劇が起きたのはメダル圏内の2位で迎えた16番パー3だった。
グリーンの手前と右には池が広がっている。最終日のピンは池に近い右サイドに切られていた。確実に表彰台に残ることを考えれば、左サイドを狙うのが安全策。だが、山下のティーショットはピンを目がけて飛んだ。そして向かい風に叩き落とされて失速。グリーン手前の枕木に当たって水しぶきを上げた。
「風です。(クラブを)あと1番手上げていれば良かった。1打でも伸ばそうという気持ちで回っていた。ピンよりは左に打ったつもりだったけど、思ったよりキャリーが出なくて…池に入ってしまった」
ドロップゾーンから放った第3打を4メートルにつけたものの、パットが決まらずダブルボギー。最終的に3位と1打差の4位でメダルを逃した。悔やんでも悔やみきれない一打になった。
ミックスゾーンでは気丈に振る舞っていた。けれども取材対応を終えて日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長に慰めの言葉を掛けられると、こらえ切れなくなった。小林会長に体を預けて、人目もはばからずに泣きじゃくった。肩を震わせる後ろ姿から思いが伝わってきた。
「あの時は凄く悔しくかった。メダルを獲りたい気持ちがあったし、獲れなかったことが凄く悔しかった。でも、それ(経験)を次の大会に生かせるようにやろうという気持ちにもなった」。今は冷静に振り返ることもできる。
受け入れがたいミスには違いない。でも学んだこともあった。「あの時は縦距離がなかなか合わなかったり、ショートゲームがあまり良くなかった。その辺をしっかり見直して距離はあまり求めずに正確性を大事にしてやってきた」。課題が明確になった。
1メートル50、52キロの体格は日本選手の中でもひときわ小さい。24年日本ツアーのドライバーの平均飛距離は236・36ヤードでランキングは53位だった。飛ばない選手がトップレベルで戦っていくにはアイアンショット、アプローチ、パットの精度が生命線になる。
24年はパーオン率が74・7475%で3位、平均パットが1・7214で2位、リカバリー率が75・7333%で1位だった。ブレの少ないスイング、引き出しの多い小技、絶妙なタッチのパットを武器に通算13勝を積み重ねてきた。
ただ今季から主戦場の米ツアーは別世界。全英女子オープン終了後の平均飛距離は245・22ヤードで146位。1位とは約44ヤードの差がある。
同伴競技者よりもずっと後方から2打目を打たされる状況が続いた。3月のフォード選手権ではバーディー合戦についていけず、昨年8月の全英女子オープン以来7カ月ぶりの予選落ちを喫した。
危機感が一気に高まり「バーディー数が少なかった。目標にしている優勝やシードを獲るには今のままでは絶対に無理。そこをしっかり見直したい」と深刻な表情で話した。
自らのスタイルにも疑問を抱いた。米ツアーで勝つにはやはり飛距離が必要。そんな思いが頭をもたげてきた。「10ヤードくらい伸びてくれたら」と筋力トレーニングに注力するようになった。しかしパーフォーマンスは上がらない。むしろ悩みは深くなった。
山下と同じく今季から米ツアーに本格参戦した後輩の竹田麗央、岩井千怜が優勝。同じ2001年生まれの西郷真央は4月のシェブロン選手権でメジャー初優勝を飾った。
「今年に入って(西郷)真央ちゃんもメジャーで勝ったし、いい刺激をもらっていた」。勝ちたい思いは募る一方。なのに、どうすれば勝てるのかが分からない。迷いの中で、ずっともがいていた。
6月のダウ選手権を終えて一時帰国した際、コーチの父・勝臣さん(50)に悩みを打ち明けた。
5歳でクラブを握った時から父と娘の二人三脚で歩んできた。ただし勝臣さんにはゴルフの経験がほぼない。山下によると「スコアは100前後で、小さい時から私の方がうまかった」というから腕前はアベレージゴルファーのレベルだ。
それでも「私もゴルフのことを考えているけど、それ以上に考えてくれている。スイングのこと、技術面のことも、お父さんの言うことは正しい」とコーチとしては全幅の信頼を置いている。
その父の回答は明確だった。「そういうこと(飛距離)よりもスコア作り、どうやればバーディーが取れるかを考えた方がいい」。
勝臣さんの言葉を聞いて納得した山下は「人それぞれ体もコンディションも違う。今自分ができることをやるのが大事」と飛距離へのこだわりを捨てて、自らのスタイルを貫くことを決断した。
そしてウェールズのリンクスで栄誉を手にした。最終日の6番パー5。556ヤードと距離が長いため、ドライバーを握りたくなるホールだが、バンカーを避けるためアイアンでティーショットを放った。山下の信条を象徴する場面だった。
最終18番。単独首位でフェアウエーを歩く山下に拍手と歓声が降り注いだ。その光景が脳裏に焼き付いている。「18番のフェアウエーを歩いて行く時のギャラリーの多さもやっぱり違った。メジャーは本当に違うんだなという景色だった。絶対に忘れない」。
18番グリーンで行われた表彰式。山下は晴れやかな笑顔でトロフィーを抱いた。メダルを逃し、大粒の涙を流した日から358日がたっていた。(スポーツ部専門委員)
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