サプライズの裏の男 ラグビー日本代表・小倉順平が貫いてきた一念「責任を持って役割を果たしたい」

[ 2023年8月20日 08:00 ]

ラグビー日本代表の練習でステップを踏んで、ボールキャリーする小倉
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 サプライズには表と裏がある。巻誠一郎が表なら、久保竜彦が裏か。誰かが喜んでいる傍らで、誰かが涙をのむ。選手選考には必ず、悲喜こもごもの情景がある。

 ラグビーW杯フランス大会に臨む日本代表33人が出そろった。メンバー発表後に集合し、代表チームとしての活動が始まるサッカーと違い、ラグビーはある程度の人数に絞り込まれた状態で活動し、最後に数人をふるい落とす。従って、サプライズはほとんど起こりえないのだが、今回はあった。その一つが、山中亮平の落選であり、表裏一体にあるのが、小倉順平の選出だった。

 松島幸太朗とともに桐蔭学園高を2010年度の花園初優勝に導いた立役者であり、早大やU20日本代表でも活躍した。17年にはサンウルブズで経験を積み、同年4月の韓国戦で日本代表初キャップを獲得。飛び級的な出世を遂げた松島の3年遅れだったが、それでも順調にキャリアを積んでいたとの見方は間違いないだろう。だが、同年6月のアイルランド第2戦を最後に、その姿を代表活動で目にすることはなくなった。

 「ディフェンスで落とされた。落ちた時は、ジェイミーと個人ミーティングを開いてもらって、終わった。やばかった。過去イチ、(口調が)強かった。衝撃があった」

 代表通算4キャップは、全て10番を背負って積み重ねている小倉。その4キャップ目が、13―35で完敗したアイルランド戦だった。2年後のW杯で対戦する相手との2連戦は、その当時の力関係を測る意味でも重要なベンチマークだった。そんな一戦で役割を果たせず、ディフェンス面の課題を厳しく指摘された。以後6年間、一時リストアップはされたものの、活動に招集されることはなかった。

 「海外の選手と体を当てたい」。代表に返り咲くために、「コウちゃん」と呼ぶ高校の同期がすでに2度経験したW杯の舞台に立つために、選択肢は一つだった。20年2月、シーズン途中に当時所属していたNTTコムを退団し、退路を断って最終年のサンウルブズに再び飛び込んだ。登録手続きの遅れと、すでに忍び寄っていたコロナの影響で、出場できたのは計2試合、99分間。そのわずかなプレータイムそのものが、6年ぶりの代表復帰に直結したわけではないだろう。だが「一念岩をも通す」と言われる。その後はキヤノン入りし、沢木敬介監督の「オブラートに包まず、どんどん言ってくれる」という環境でステップアップできたのは、小倉自身の飽くなき向上心を保ち続けたからにほかならない。

 「選ばれたというのがあるので、責任を持って役割を果たしたい」。日本を発つ前日の8月18日、実に穏やかな表情と口調で、そう語った。6月に始まった浦安合宿から、当落線上で必死にもがいて生き残った今でも、SO3番手という立ち位置に変わりはないだろう。7、8月の国内5連戦では非テストマッチだったオールブラックス・フィフティーンとの初戦に途中出場から24分間プレーしたのみで、プレータイムは十分とは言えない。本番も出場機会に恵まれない可能性はあるだろう。

 それでも現代表で「柱」と呼ばれるノンメンバーが、チームの浮沈を握る重要な役目にあることを理解している。「モチベーションが落ちていたら、これから続かない。自分の役割を、ここ(代表)にいる間、やることだけにフォーカスしている」。31歳で初めてたどり着いたW杯への覚悟。何が起きても不思議ではない4年に一度の舞台でサプライズを起こすのは、得てしてそんな覚悟を持った男のいるチームである。(記者コラム・阿部 令)

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