豊山「腕が限界」で引退決断 パーソナルトレーナー転身へ 思い出の一番は18年名古屋場所の大熱戦

[ 2022年11月29日 18:09 ]

引退会見を行った豊山(日本相撲協会提供)
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 大相撲の元幕内・豊山(29=時津風部屋)が29日、オンラインで引退会見を行った。発表から一夜明け「ホッとした。肩の荷が下りた」と心境を語った。

 九州場所は西十両4枚目で5勝10敗。両腕のケガに苦しみ「なかなか思うように相撲が取れない中でたくさんの方が応援してくれていた。その期待に応えられない歯がゆさがあった」という。九州場所前、師匠の時津風親方(元幕内・土佐豊)に「腕が限界を超えてしまいました」と伝え、負け越しが決まった12日目の翌朝、もう一度師匠と話して引退を決断した。昨年春場所で右上腕二頭筋の腱を切り、その後左肘も負傷。「思うように相撲が取れなかった。何かする度に痛みが走って日常生活に支障が来ていた」というほどケガの具合は深刻だった。「まだ29歳だしケガをしっかり治せばまだいけるんじゃないか」という周囲の声もあったが、完治させる長期的なリスクを考えた時に「家族がいますし2人のために、というのが頭に浮かんで」と引退に踏み切った。

 「今場所は全てをぶつけたつもりなのでそういう意味では後悔はない」と未練なく6年半のプロ生活を終えた。最後の一番となった千秋楽の栃武蔵戦は「相撲を取っていて初めて土俵上で楽しいなという感覚があった」という。熱戦の末に敗れ「“やりきったな”って肩の荷が下りたような感情が湧いてきて“凄く良い相撲人生だったな”と振り返りながら」最後の花道を去って行った。

 潔い決断の中にも「一つ心残りかな」と感じているのは、同学年のライバル・朝乃山(28=高砂部屋)ともう一度対戦したかったということ。大学時代は東京農業大と近大でそれぞれトップレベルで活躍し「東の小柳、西の石橋」と呼ばれていた。16年春場所初土俵の同期で、ともにこの年から新設された三段目100枚目格付け出し同士でデビュー戦で対戦。その後も熱戦を繰り広げ、大相撲の土俵で計7度対戦して豊山の3勝4敗だった。「彼の存在は僕の相撲人生の中で一番大きかった。彼よりも強くなりたいという気持ちがあったから、もっと頑張らなきゃいけないと奮い立たせてくれた。(朝乃山が)大関に上がった時は“ここで終われないな”と思わせてくれた」。朝乃山は来年初場所での再十両昇進が確実視されており、豊山が現役を続ければ十両の土俵で再戦が実現していたはず。「もう一回お互い力と力をぶつけ合って戦いたかったなというのはあります」。ファンが期待していたのはもちろんのこと、20年7月場所以来の再戦は当人も望んでいた。

 6年半の現役生活で最も思い出に残っている一番は、18年名古屋場所千秋楽の御嶽海戦。「大学の時からしのぎを削ってきた先輩である御嶽海関と朝乃山関と3人で優勝争いをすることができて、最後に自分の全てをぶつけることができた。“これからもっと強くなれるんだ”と実感が湧いた一番なので今でも鮮明に覚えています」。1学年上の御嶽海は、14年8月に台湾で行われた世界選手権で団体優勝した時の日本代表のチームメートでもあった。21秒間のめまぐるしい攻防の末、土俵際逆転の掛け投げ。前日に初優勝を決めていた御嶽海を相手に一矢報いた姿は、多くのファンの心にも刻まれた。

 今後は日本相撲協会に残らず、パーソナルトレーナーに転身する予定であることを明かした。「現役中にたくさんケガをして体のことをいろいろ勉強した。スポーツでケガをした人やケガの予防に努めている人たちのために何かできるんじゃないかと思うようになった。それが仕事になったら、自分が相撲界で得たものを生かせるんじゃないか」と理由を説明。「人に教えるには知識がないとできないので、これから勉強していきたい」とまだ構想段階であるとした上で、相撲を通したトレーニングの指導やアマチュア相撲の普及にも努めていく考えがあることを示唆した。


 ◇豊山 亮太(ゆたかやま・りょうた)本名=小柳亮太。1993年(平5)9月22日生まれ、新潟県北区出身の29歳。小1から豊栄相撲教室で相撲を始め、小5でわんぱく相撲全国大会3位。石川・金沢学院東高(現・金沢学院大附属高)3年時に全国高校総体8強。東京農業大2年時に全国学生選手権準優勝。3年時に全日本大学選抜宇和島大会準優勝、全国選抜大学実業団対抗和歌山大会優勝、世界選手権団体優勝。4年時に東日本学生選手権優勝、全日本大学選抜十和田大会優勝、世界選手権重量級優勝、全国学生体重別無差別級優勝、全日本選手権8強。東京農業大を卒業後、時津風部屋に入門。16年春場所、新設された三段目100枚目格付け出しで初土俵。同場所で三段目優勝。翌夏場所で幕下優勝。同年九州場所で新十両。17年夏場所で新入幕。最高位は西前頭筆頭(20年7月場所)。幕内在位26場所。幕内成績165勝215敗10休。通算成績277勝281敗10休。1メートル85、181キロ。

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