追悼連載~「コービー激動の41年」その86 濃霧の中の離陸 目標を失ったパイロット
2020年1月26日の日曜日。コービー・ブライアントは自宅のあるニューポートビーチの自宅を出発して近くにあるジョン・ウェイン空港に到着。ロサンゼルス南東部のニューポートビーチから「マンバ・スポーツ・アカデミー」のあるサウザンドオークスに車で行くには、渋滞必至のロサンゼルス市内を通過するために2時間ほどかかるので「空路30分+陸路15分」で済むヘリコプターでの移動を選択した。
ブライアントは現役時代から時間短縮のためにヘリを使っており、この日に限って特別な選択をしたわけではない。同乗したのは8人で、ブライアントの次女ジアナさんのチームメートでもあるアリサ・アルトベリさんや、アリサさんの父親でオレンジコースト・カレッジの野球チームで長年にわたって監督を務めていたジョン・アルトベリ氏、さらに同氏の妻ケリーさんらが含まれていた。
前日も同じルートを飛んでいるこのヘリは1月26日の午前9時6分にジョン・ウェイン空港を飛び立っている。ただしこの日のロサンゼルス一帯は霧に包まれており、警察用のヘリは離陸を見送っている。視程2マイル(3・2キロ)が確保され、雲の下限が高さ240メートル以上にあることが有視界飛行(VFR)を原則とするヘリ運航におけるロサンゼルスでの航空ルール。この時点で視程は5マイル(8・0キロ)で雲の下限は400メートルだったとされている。ただしすぐに気象条件は悪化。実際に得られていた視程と雲の下限の詳細は違っていた可能性もある。
雲の中を飛行する際には計器飛行規程(IFR)に従えば可能だが、アイランド・エクスプレス社はその資格を与えられておらず、たとえそれが可能であっても、出発の延期もしくは迂回することが原則だったという。なぜならロサンゼルス上空は多くの民間機の離発着などで道路同様に混雑しており、上空通過の優先権を持っている順に運航。“ブライアント機”には事前にその優先権は与えられていなかった。
搭乗した全員が死亡してしまったので、離陸に踏み切った具体的な経緯は不明。ブライアントからのリクエストがあったのか?それとも50歳だったベテラン・パイロットのアラ・ゾバヤン氏がブライアントの気持ちを“忖度”して離陸したのか…。今となっては真実は闇の中だ。ただしブライアントを現役時代からヘリに乗せていた元パイロットによれば、ブライアントは決して無理なフライトを強要したりはしなかったという。
では離陸したあとの「シコルスキー・S―76B」を追いかけてみる。本来ならジョン・ウェイン空港を離陸後、高度240メートルに達したところで北西に進路を取り、ロサンゼルスのダウンタウン上空にさしかかったところで西へ。ベンチュラ・ハイウエーが見えてくるまで、ダウンタウン北西にあるサンタモニカ山地を目指すのが通常ルートだった。
しかし1月26日は海水面の温度が高く、サンタモニカ山地が海からの湿気を吸い取るように霧に包まれてしまった。ヘリは北西に進みながらも、ドジャー・スタジアム周辺を通過したあとベンチュラ・ハイウエーではなくゴールデンステート・フリーウエーに沿って飛び、通常ルートからするとやや「右」にそれてグレンデールに接近。ゾバヤン操縦士は近場にあったバーバンク空港(グレンデールの北西8キロ)の航空管制官に同空港上空を通過してのベンチュラ・ハイウエー方面への侵入許可を求めた。
航空管制官はここで「空港周辺の気象条件は計器類飛行を必要としている」という旨を告げ、それを満たしていないゾバヤン操縦士に対して上空を旋回するように指示。これは午前9時21分から11分間続いた。その後、同空港上空への通過が認められたが対地高度で760メートルを維持するのが条件。これを受けてゾバヤン操縦士は高度を430メートルほど上げた。その後、ようやく南西方向にあるベンチュラ・ハイウエーへの進路変更が認められたのだが、この時点ではまだ460メートルの視程があった。時刻は離陸から33分が経過した午前9時39分。すでに当初のフライト予定時間を過ぎていた。そしてここから「シコルスキー・S―76B」は不可思議な動きを見せていく。(敬称一部略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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