古賀史師 米のスピード血統で短距離界に旋風「悔いはないよ」

[ 2022年2月11日 05:30 ]

今月末で引退する古賀史生師(撮影・西川祐介)
Photo By スポニチ

 【さらば伯楽】タンスにつるしたネクタイに持ち主の嗜好(しこう)性が表れるなら、書棚に並べた単行本には持ち主の志向性が表れるという。「よし、これで全部だな。みんなあげるから馬と一緒に持って帰ってくれ」。古賀史生師は自厩舎の本棚に収納していた血統に関する本の山を牧場行きの馬運車に積み込んだ。その多くが「私の最も好きな血統だ」と言うダンジグなど米国のスピード血統を解説した書籍。「タンスには馬や馬具をデザインしたネクタイが300本近くあるんだ。本の次はこれも処分しないとな」。馬運車を見送ると、70歳定年に伴い今月いっぱいで明け渡す厩舎の後片付けに追われた。

 シンコウスプレンダ、トキオパーフェクト、サーガノヴェル…米国のスピード血統で短距離界に旋風を起こしたトレーナー。セリ名簿を手に南カリフォルニアからケンタッキー、フロリダと米国のセリ市を飛び回り、自らの目で選んだ馬が日本で重賞ウイナーになった。JRA重賞通算10勝のうち6勝が米国産馬。「20馬房の厩舎に外国産馬が19頭もいた時期もあった。(北海道)日高に行くと、生産者に“馬を見るなら日高より米国に行けば”なんて嫌みを言われてね(笑い)。でも、馬主さんには随分背中を押してもらった。“米国で好きな馬を買ってこい”ってね」

 ノースヒルズの前田幸治代表や“ナイキ”の冠名で知られた小野誠治オーナーらの支援で1年に4、5回も渡米。サラブレッドを購入した帰りには馬がデザインされたネクタイも買い込んだ。その集大成がJRA通算531勝とタンスに保管した300本近くのネクタイ。「馬を買う時は目を見るんだ。走る馬は目の輝きが違う。逆に目つきが悪い馬は性格も悪い。シンコウスプレンダはいい目をしていた。蹄で苦労したけど、順調ならG1も獲れたんじゃないか」

 短気は損気という。「凄く短気だから欧州のじっくり脚をためる競馬なんてじれったくて…。さっさと決着つけろと。米国のスタートからビュンビュン行く競馬が性に合っている。厩舎作業も早かったよ。手早く丁寧にがモットーだったから」。短気が米国のスプリント血統を志向させ、短期集中型の作業で重賞を勝つ。短気は損気とも言えない調教師生活だった。獣医師志望から調教師へ方向転回して34年。「やり残したことはたくさんあるけど、悔いはないよ」。本棚の整理も済ませた厩舎棟の自室のようにさっぱりとした表情で振り返った。

 ◇古賀 史生(こが・ふみお)1951年(昭26)10月4日生まれ、広島県大崎上島町出身の70歳。成蹊大卒業後に獣医を目指して麻布獣医大に入学。80年、美浦・斎藤籌敬厩舎の調教助手になり、81年に義父の古賀末喜厩舎へ。88年、調教師免許を取得し、89年開業。JRA通算531勝、重賞10勝(10日現在)。

続きを表示

2022年2月11日のニュース