【中村鶴松の鶴明times 4】「心で演じる」 筆屋幸兵衛で中村勘三郎さんが見せた鬼気迫る芝居

[ 2025年10月5日 12:30 ]

自ら化粧を行う中村鶴松(本人提供)
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 【中村鶴松の鶴明times】歌舞伎の世界を描いて大ヒット中の映画「国宝」(監督李相日)の主人公の喜久雄さながらに“部屋子”からスターダムに駆け上がろうとする俳優がいる。中村鶴松(30)だ。一般家庭で生まれ、十八代目中村勘三郎さんの元で修業する部屋子となり、歌舞伎俳優の人生を歩み始めた。

 第4回では師から叩き込まれた「心で演じる」ことの本質に迫る。

 「これは役者が多分一生追求することなんだと思います」と鶴松は言う。「今起こったことをその場で感じ取って、新鮮な反応をして、新鮮にその役を生きるというのが最終地点」。約1カ月続く歌舞伎興行の中で、観客に毎日新鮮な芝居を届けることは難しい。歌舞伎は型があり、せりふも特徴的。「良い意味でいうと型ですけれども、悪い意味だとやるべきことが決まっているんです」。勘三郎さんにはそうした伝統的な型を守ることと同時に、演技に心を込めることを教え込まれた。

 例えば先月の自主公演で演じた古典の名作「仮名手本忠臣蔵」の5段目には鉄砲を雨に濡れないようにする場面がある。「正直型があるので何も考えなくても、上を見て隠せばいいんです。でもそこで“雨が降ってきた。濡れてしまう”と思わないといけないよというのが中村屋の教えなんです」。ただ型をまねるだけではなく、心中で思って演じることの大切さを常々勘三郎さんは説いてきた。その教えは今も中村屋全体に受け継がれている。

 生前、勘三郎さんが説いた「心で演じる」ことを特に体感した場面があった。それは2007年歌舞伎座で「水天宮利生深川(筆屋幸兵衛)」で共演した時のこと。河竹黙阿弥作で、没落士族の悲哀を描いた作品。勘三郎さんは借金取りに追われ、一家心中を図ろうとする主人公の筆職人船津幸兵衛を初役で演じた。鶴松は娘お雪を務めた。

 「勘三郎さんが子供を殺そうと精神がおかしくなる場面があるんです。貧乏で風呂に入っていないに匂いとか爪のアカとかを感じられたことが今でも僕の記憶には残っている。舞台上でプチンと怒った時は本当に衝撃的だった。筆とかを投げたり、ほうきで僕とかを突き飛ばすんですよ。すごく痛かったのを覚えています」。

 劇中でのあまりの変貌ぶりを笑った最前列の観客には、アドリブですごんでみせた。役になり切り鬼気迫る姿は、今でも鶴松の脳裏に鮮明に刻まれている。「間近で中村勘三郎という人間の天才を実感しました」。まさに「心で演じる」ことを味わった瞬間だった。

 「今あったこととして、リアルに見せるのが演劇、芝居の最終地点だと思います。それを俳優はずっと追求していくんだと思います」。これからも観客に心を感じさせることをとことん探求していく。

 次回は10代で、勘三郎さんから任された平成中村座での印象的な役の経験を振り返る。

 連載タイトルの「鶴明(かくめい)」は、自身の名前の「鶴」と師勘三郎さんの本名「哲明」から一文字ずつ取ったもので、歌舞伎界に革命を起こすという意気込みも込められている。

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