【侍ジャパン】データ全盛時代「正しい活用法」示す分析の達人

[ 2026年2月15日 05:00 ]

侍ジャパン宮崎事前合宿 ( 2026年2月14日    サンマリン宮崎 )

ブルペンで松本裕(右端)と話す星川帯同アナリスト(左から3人目)(撮影・岡田 丈靖)
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 【侍の国宝】「芸道」ならぬ「野球道」を生きるスタッフが日本代表にいる。侍戦士を陰で支える世界でただ一人の存在は、まさに「侍の国宝」だ。連載第1回は09年、23年に続き今大会もチーム同行アナリストを務める星川太輔氏(49)。大きく進化したデータ分析の取り組みに迫った。(取材・柳原 直之)

 星川さんには忘れられない光景がある。前回大会の宮崎合宿初日。投手陣最年長のダルビッシュ(パドレス)が「TrackManあるんですか?すごい助かります!」と声を掛けてきたという。

 「ダルビッシュ投手のこのひと言が全てを変えました。大会前、侍ジャパン側は“日本代表選手がどこまでデータを見るだろうか?”と懐疑的でしたが、彼は1球ごとに数値を確認し、自分の感覚と擦り合わせていました。その姿を全選手と全コーチが見ていて、翌日から全員が“ダルビッシュさんが見るなら自分たちも”とデータを確認するようになりました」

 打者では大谷(ドジャース)の存在も大きかった。星川さんが「実は日本にいた頃はそれほど興味を示していなかったのですが、メジャーに行ってから変わりました」と評す大谷。名古屋で合流直後、星川さんに「明日のフリー打撃でデータを取得してもらえますか?」と依頼していた。

 宮崎合宿中は投手だけでなく打者もデータを計測していたが、気にする選手はわずかだった。当日のフリー打撃で異次元の打球飛距離を連発し、1球をごとに数値を確認していた。すると、この大谷の姿を間近で目撃し「今何キロでしたか?僕は何キロくらいですか?」と確認する打者が続出。この日以降、ほとんどの打者が自身の感覚と数値を確かめるようになったという。

 星川さんがさらに印象的だったのは、大谷がフリー打撃時に「ブラストモーション」を使用していたことだった。バットのグリップエンドに装着し、スイングすると瞬時にバットスピード、スイング軌道など10項目以上の数値が表示される打撃用の解析機器で、「あれだけすごい大谷選手が普段からデータ、バットスピード、スイング軌道まで気にしていることにびっくりしました」という。「普段はフリー打撃をしないと聞いていましたが、屋外で打つと柵越えしたくなってスイングが崩れやすいので確かにその必要はないなと感じました」と印象を口にした。

 あれから3年が経過した。侍ジャパンのメンバーは大会後に各球団にこれらの経験を持ち帰り、プロ野球界のデータへの理解は格段に浸透した。星川さんも「以前は“回転数”という言葉だけが一人歩きしていましたが、今は“回転効率”や、平均的な変化量との差を示す“変化量のトレース”など、本質的な意味を理解して活用できる選手が増えています。自分の感覚を数値で補完し、技術的な修正に即座に結びつける能力は、ここ数年で飛躍的に向上しました」と手応えを感じている。

 例えば、ボールの回転軸を時計の短針で表した「チルト」。12時なら完全なバックスピンを意味する指標で、星川さんによれば選手らは「今のカーブは7時30分(の回転方向)だったけど、空振りを取るために6時30分の方向にしたい」といった会話をしながら、即座に回転の傾きを調整しているという。

 星川さんは09年大会後、一度野球界から離れていたが、復帰した現在は侍ジャパンのトップチームからアンダー世代の代表チームでもデータ計測のサポートをしている。

侍ジャパンのデータへの理解を大きく変えたダルビッシュと大谷。星川さんは「彼らトップの2人があそこまでやる姿は、日本球界全体に大きな影響を与えました」と断言する。進化し続ける現代野球。星川さんとともにデータ全盛の潮流を把握し、それに適応することも侍ジャパン世界一連覇の鍵となりそうだ。

 ≪重要な指標の一つに「リリースアングル」≫星川さんは、現代の投手で重要な指標の一つに「リリースアングル」(発射角)を挙げた。プロの直球の「リリースアングル」はマイナス1・5~2度が一般的だが、「変化球を投げる際に、この角度がプラス(上向き)に出てしまうと、打者は瞬時に“浮いた=変化球だ”と判断します。超一流の投手は、直球も変化球もこの発射角度を限りなく一致させ、打者の判断を極限まで遅らせる努力をしています」と説明した。

 ≪データ全盛の現代野球の未来語る≫星川さんはデータ全盛の現代野球の未来についても語った。「今後はそのボールを投げるために、骨盤がどう動き、上半身にエネルギーがロスなく伝達されているかというバイオメカニクス(身体の動き)やエネルギー伝達の効率性を計測していくことが主流になります」。ボールの軌道や回転を測ることに特化するトラックマンに対し、数倍のコストがかかるが球場に設置された多数の高性能カメラで解析するホークアイでは選手の体の動きまで計測できる。「“疲労で骨盤の回転が遅くなったから、シュート成分が強くなった”といった因果関係を数値で証明できるようになれば、怪我の予兆検知や、より個々の骨格に合った究極のフォーム指導が可能になります」と解説した。

 ◇星川 太輔(ほしかわ・だいすけ)1976年(昭51)5月25日生まれ、東京都出身の49歳。慶応義塾大学進学後、卒業後は株式会社アソボウズ(現データスタジアム株式会社)に入社し、データアナリスト、プロスポーツチーム向けコンサルティング事業を担当。日本が世界一連覇を成し遂げた09年の第2回WBCではデータ分析担当としてチーム帯同。同年にデータスタジアムを退社後、商社勤務を経て2016年からTrackManに従事。内面の可視化を通じて自分自分自身と向き合うスキルを養う、TOiRO株式会社updraft事業のエグゼクティブパートナーも務めている。

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