【内田雅也の追球】辛抱の「しのぎ」の手筋

[ 2025年10月16日 08:00 ]

セCSファイナルステージ第1戦   阪神2―0DeNA ( 2025年10月15日    甲子園 )

<神・D>5回、ピンチをしのいで雄叫びを上げる村上(撮影・北條 貴史)
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 阪神・村上頌樹―坂本誠志郎のバッテリーは初球に外角ボール球直球を選んだ。0―0の5回表2死一、三塁で山本祐大を迎えた場面である。

 これが100球目だった。初回からピンチの連続で相当に球数を費やした。それでもボール球から入った。山本の気をそいだ1球となった。結果、2ボール1ストライクからカーブで三ゴロに取り、ピンチを脱した。

 「ピンチでは時間、球数を使え」と阪神でも監督を務めた野村克也は指導していた。いわば「しのぎ」の手筋である。

 著書『野球論集成』(徳間書店)でピンチでは「誘う」「じらす」「ずらす」……と<勝負を焦ってはいけない>とある。好調の4番・筒香嘉智には1、2打席、ともに6球を費やした。結果は四球だが焦らなかった。

 毎回走者を許した。それも2回表を除き、回の先頭打者に安打され、得点圏に走者を背負った。

 このため、間合いを取り、けん制球を入れ、ボール球で誘って時間も球数も使った。結局、5回で103球を投げたが、けん制球は偽投も含めて11球にのぼった。手筋に沿った投球だった。

 野球は本来、時間制限のないスポーツである。今の大リーグのようにピッチクロックを使った投球間の時間制限はない。時間を自由に操りたい。

 「詩人は野球の投手のごとし」と米国の詩人、ロバート・フロストが書いている。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」

 原文では先の間は「モーメント」、後の間は「インターバル」。瞬間と間合い、双方の間を支配するのが好投手なのだ。

 大事なクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第1戦の先発である。優勝し、13ゲーム差もつけた2位DeNAは負けられない。相手は失うものはないと向かってくる。ファーストステージで巨人に連勝した勢いもある。相手先発は最多勝を分け合った東克樹だ。重圧のかかるなか、慎重に丁寧に投げ、重圧に勝ったのだ。

 <勝てる試合には信頼できるピッチャーを惜しげもなくつぎこみ――>と、野村はその名も『短期決戦の勝ち方』(祥伝社新書)で記していた。

 村上から及川雅貴、石井大智、岩崎優と自慢の救援陣で零封して逃げ切った。長く待った決戦本番だが、これは阪神の野球だった。 =敬称略= (編集委員)

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