【内田雅也の追球】「あと1球」からの打撃

[ 2025年4月12日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6―3中日 ( 2025年4月11日    甲子園 )

<神・中>初回、佐藤輝は二塁打を放つ(撮影・須田 麻祐子)
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 甲子園球場に「あと1人」コールが響くのは今季初めてだった。阪神監督・藤川球児は「久々に聞いた。あ、これだこれだと少し思いだしました」と懐かしんだ。現役時代、クローザーとして幾度も「背中を押された」大声援である。

 この夜はなかったが、最後の打者を追い込むと「あと1球」コールに変わる。阪神がこの夜、難敵の中日・高橋宏斗をKOできたのは「あと1球」からの打撃が優れていたからである。

 高橋に浴びせた9安打のうち実に6本が2ストライク後に放ったものだった。相手の決め球に食らいついたわけだ。これで5点を奪い、4回で降板に追い込んだ。

 2点を先取された直後の1回裏は1死から5連打で4点を奪い、逆転した。このうち佐藤輝明、森下翔太、大山悠輔の主軸トリオの安打はいずれも2ストライク後。それも3人とも決め球のフォーク(スプリッター)を打ち返した。

 もちろん150キロ台後半の速球もある。だから森下は「追い込まれていたので、コンパクトに打つことを意識しました」と話している。森下に限らず、全員が振幅を小さく、シャープなスイング心がけた成果だろう。

 4回裏には2死無走者から近本光司、中野拓夢が2ストライク後に短長打して追加点をあげた。

 乱暴な書き方だが、大体カウント別成績で言えば、0ストライク時(つまり第1ストライク)は打率3割台、1ストライク時2割台、2ストライク時1割台というのが通常の数字である。

 昨季、セ・リーグ最優秀防御率(1・38)のタイトルを獲った高橋は0ストライク時113打数35安打で被打率3割1分だったが、2ストライクと追い込めば283打数42安打で被打率1割4分8厘しか打たれていなかった。今季も登板前まで23打数4安打、被打率1割7分4厘だった。そんな高橋の決め球を打った打撃は値打ちがある。

 この日は藤川にとっては苦い思い出が残る「4月11日」だった。2003年、東京ドームでの巨人戦で4点リードの9回裏2死、それも0ボール2ストライク、つまり「あと1球」で監督・星野仙一に救援起用された。だが、適時打に同点3ランを浴びたのだった。

 「あと1球」の苦さを知った22歳は後にその重さを知り、いま、その深みを味わう。「あと1球」のドラマを見る一戦だった。 =敬称略= (編集委員)

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