【内田雅也の追球】あと「0・1秒」への執着心 唯一の失点を招いた本塁送球の乱れに見えた課題

[ 2025年3月12日 08:00 ]

オープン戦   阪神0ー1西武 ( 2025年3月11日    ベルーナD )

7回。長谷川の打球を処理して返球する前川
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 阪神0―1敗戦となる失点は本塁送球の乱れによるものだった。

 0―0の7回裏2死一、二塁。長谷川信哉の左前適時打である。

 この時、阪神外野陣は前を守っていた。三遊間をゴロで抜かれる安打に左翼手・前川右京は前進チャージ。打球捕球と二塁走者の代走・仲田慶介が三塁を蹴るのはほぼ同時だった。前川の送球は少し二塁方向にそれ、三塁手・高寺望夢がカット。高寺の本塁送球は大きくそれて失点となった。

 監督・藤川球児は「高寺もまたちょっとスローイングで……。また課題が出てね」と言った。

 確かに高寺の送球は乱れた。ただ、VTRを見直し、手もとのストップウオッチで計ってみると違った思いも浮かぶ。

 打者インパクトの瞬間から、阪神が7―5―2と転送したボールが本塁に達するまで――結果的にそれたが――の時間は6秒48だった。

 通常、走者二塁、単打での本塁送球は二塁走者の足との競争で「7秒」が境目とされる。プロでここ一番なら「6秒50」を巡る攻防だろう。今回の6秒48はタイムとしては悪くはない。

 だが、それ以上に二塁走者・仲田の俊足が際だっていた。生還タイムは6秒38だった。好タイムの6秒48でも0・1秒届かない。ならば仕方ないとあきらめるのか。

 今春の沖縄・宜野座でのキャンプ。シートノックで、外野陣は必ず最後にゴロの安打にチャージしての本塁送球を行っていた。それもカットマンを使わず、1人で投げるように繰り返していた。

 つまり、この日の左前打も本来は前川が1人でワンバウンド送球したい打球だったわけだ。カットへの送球だとしても捕球地点と本塁を結ぶ線上に投げたい。ならば本塁は間一髪のプレーにできたはずである。あと0・1秒への執着である。

 3・11だった。試合前、黙とうをささげた。東日本大震災から14年を迎えた。一昨年他界した作家・伊集院静は被災者だった。相当な哀しみのなか<人は嫌なことは忘れるように脳ができている>、<忘れるから生きて行ける>と『またどこかで 大人の流儀12』(講談社)で書いていた。だが、忘れてはならないこともわかっていた。

 9回表2死からノーヒットノーランを阻止する“殊勲”の内野安打を放った前川だが、反省点として記憶に刻んだことだろう。それでこそプロである。 =敬称略=
 (編集委員)

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