【内田雅也の追球】藤川新監督の時間感覚 「毎日楽しいですよ」と言う真意とは

[ 2025年3月1日 08:00 ]

春季キャンプを振り返り、総括会見で話す藤川監督
Photo By スポニチ

 阪神の選手たちを乗せたバスが沖縄・宜野座村野球場を出る。見送りの人が手を振っている。掃除のおばさんやボール拾いの青年……など、キャンプ中、裏方として働いた地元の人たちだ。

 昔、取材した、ある大リーグキャンプの最終日、記者席のホワイトボードに涙顔の絵文字を見つけた。1カ月以上、日々をともに過ごす。誰だって名残惜しいのだ。

 過ぎてしまえば、あっという間だった。阪神フロント陣とそんな話をしながらキャンプは打ち上げとなった。

 「おそらく、このキャンプが長かったという選手はいないんじゃないかと思う」と監督・藤川球児が総括会見で話した。「なので、このまましっかりやって、シーズンがあっさり終わった……あっさりというか、しっかり真剣にやっていたら、ああ終わったというふうになれば……」

 それが藤川がテーマに掲げていた「没頭」の意味なのだろう。時間を忘れるほど没頭できれば、完全燃焼ということになる。確かに「理想」かもしれない。

 ――と、ここまで書いて、大切なことに気づいた。藤川は新監督である。44歳。コーチの経験もなく起用された青年監督なのだ。つまり若い。

 報道陣の問いかけに普通に、泰然と応えているようだが、監督としては何事も初体験なのだ。

 長い阪神取材経験から思い返してみる。初めて監督となった中村勝広、藤田平、岡田彰布、真弓明信、和田豊、金本知憲、矢野燿大……らは皆、1年目は力んでいた。他球団に比べ注目度の高い阪神監督という座に戸惑い、焦っていた。当人たちに問えば、違うと答えるかもしれないが、誰もが必死で、周囲が見えていなかった。

 平然と振る舞う藤川も実際は余裕などなく、必死なのだろう。過ぎた日々を「短かった」と言う時間感覚はよく分かる。「毎日楽しいですよ」と言うのは初体験の連続だからではないか。

 開幕に向け「感情が揺れ動かないようなチームをつくりたい」と独特の言い方をした。あの言葉は選手たちはもちろん、新監督の自分自身に向けていたように聞こえた。

 上空を飛ぶ戦闘機の爆音でテレビの共同記者会見が4度も中断となった。宜野座では珍しい、不測の事態にも新監督は「大丈夫ですよ」と笑っていた。 =敬称略=
 (編集委員)

続きを表示

「阪神」特集記事

「大谷翔平」特集記事

野球の2025年3月1日のニュース