新国立は五重塔VS御柱 最終2案とも「和」デザイン

[ 2015年12月15日 05:30 ]

屋根部分に木を多用したA案(上)と巨大な木の柱で囲むB案(JSC提供)

 2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる「新国立競技場」の建設計画2案が14日、公開された。業者決定前の応募内容公表は極めて異例。7月に撤回されたザハ・ハディド氏の原案とは異なり、ともに「和」を重視。A案はひさしの部分が奈良・法隆寺五重塔を思わせる外観、B案の柱は長野・諏訪大社の御柱(おんばしら)をイメージさせるデザインだ。今後は関係閣僚会議などを経て、今年中に正式決定する。

 巨大な2本のアーチが特徴的だった旧計画の前衛イメージは全くない。日本スポーツ振興センター(JSC)がこの日公開した新国立競技場の「技術提案書」2案は、木材の大胆な活用が目を引く“和テイスト”。

 A案は「木と鉄のハイブリッド屋根構造」が売り。観客席を覆うルーフは全荷重こそ鉄骨で負担する設計だが、その鉄骨を挟むように「ラチス材」と呼ばれる木材を補強。鉄骨むき出しの冷たさがじんわり消され、ぬくもりが伝わってくる。外観はひさしと柱が格子状に交わるデザイン。国産杉の使用が印象的で、法隆寺の五重塔を思い起こさせる造り。世界最古の木造建築と重なるイメージは、新しさの中に伝統を感じさせる。

 対してB案。競技場外観を取り囲む72本の支柱は驚くべきことに全て純国産カラマツだ。高さ約19メートル、太さ約1・3~1・5メートル。耐火認定取得済みなので、火事でも心配はいらない。この柱は長野県諏訪大社の御柱=高さ17メートル、太さ1メートル=のオマージュだ。72本全てが「大黒柱」の役割を果たし、天空に浮かぶような特徴的な屋根を支えるコンセプト。B案の技術提案書によれば「縄文時代や神社を想起させ(中略)力強い日本を象徴します」という。

 8月28日に新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議が開催された際、基本理念として「日本らしさ」を取り入れると決定していた。その具体策として「木材の活用を図る」が明記され、今回の応募業者が工夫を凝らしてプレゼンしたのがこの2案。総工費2651億円と高騰したザハ氏の案より1000億円以上も抑えられた。さらにザハ案の高さ約70メートルに対し、両案は50メートル前後と威圧感も低減。完成時期についても当初より約2カ月早い19年11月末になった。今後は関係各団体や元オリンピアンらの意見を聞き、JSCウェブサイトからは国民の声を集めていく予定。

 選考に公正を期すため応募者・グループの実名は公表されていないが、設計は建築家の隈研吾氏と伊東豊雄氏、施工業者は大成建設などの共同事業体と、竹中工務店・清水建設・大林組の3者が組んだ共同事業体の2グループとみられている。偶然にも両案の競技場名称は「杜のスタジアム」。2020年の舞台となるのは、どちらの杜だろうか。

 ▽法隆寺の五重塔 西暦680年頃に建立され、同じ境内の金堂とともに現存する世界最古の木造建築。初重から五重までの屋根の逓減率(大きさの減少する率)が考慮されているのが大きな特色。五重目の屋根の一辺は、初重の屋根のおよそ半分のサイズ。塔身もまた、下層から上層へ行くにつれ、細くなっており、耐震設計の教科書とも呼ばれている。

 ▽諏訪大社御柱 樹齢150年を超えるモミの大木で、4社ある諏訪大社の境内の社殿4隅に建つ柱。山中から選ばれてきた計16本は7年に1度、新しくする。社殿の建て替えと、これに伴って御柱を選び、山から引き、境内に納める一連の行事を「御柱祭」と呼び、諏訪地方の6市町村の氏子たちがこぞって参加する。正式名称は「式年造営御柱大祭」。

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