父の遺骨とともに…沙保里、表彰台で誓い新た「リオで4連覇」

[ 2014年3月17日 05:30 ]

父の遺骨を手に表彰式に参加した吉田

レスリング国別対抗戦女子W杯最終日

(3月16日 東京都板橋区・小豆沢体育館)
 吉田沙保里(31=ALSOK)が天国の父にささげるW杯優勝を勝ち取った。決勝でロシアと対戦した日本は8階級で全勝し、8―0で2年ぶり7度目の優勝を飾った。吉田は53キロ級でマリア・グロワに5分33秒でテクニカルフォール勝ち。全日本のコーチでもあった父・栄勝さん(享年61)は11日に今大会に向かう途中でくも膜下出血のために急逝。突然の悲報を乗り越え、今大会は出場した3試合全てに完勝し、優勝に貢献した。

 表彰台に上がった吉田の手に小さな白い包みがあった。中身は栄勝さんの遺骨を納めた小さな骨つぼ。「お父さんも一緒に戦ってくれたので一緒に表彰式に上がろうと思った」。父と娘、そして日本チームまで一体となってつかんだ優勝だった。

 父の生前よりもその存在を近くに感じた試合だった。「今まではスタンドやセコンドにいたけど、今回はマットまで一緒に上がってくれていた」。見えない力を感じた試合は、開始2分で早々と4点を先制。第2ピリオドにも投げ技などで加点し、テクニカルフォールで相手を退けた。マットに上がる前「行ってくるからね。頑張ってくるから」と声をかけた遺影をぎゅっと握り締め「やったよ、勝ったよ。見ててくれた?」と報告した。

 チームに1勝をもたらした後は栄勝さんの気持ちが乗り移ったかのようにコーチ役としても汗をかいた。ベンチでは各選手に声をかけ、アドバイスを送って鼓舞し続けた。日本が全勝で優勝を決めると真っ先に胴上げされたのは吉田。仲間の手で宙を舞いながら、もう一度「やったよ、勝ったよ」と父に呼びかけた。

 3月に入って左膝を痛めて練習量も足らず、憔悴(しょうすい)しきった状態での出場は不安視もされた。しかし、各界のアスリートから「自分も父を亡くして気持ちが分かります」などと次々に激励メッセージが届き「こういう思いをしているのは私だけじゃないんだ」と力に変えた。骨の髄までレスラーの吉田はマットに上がり、勝つことで悲報を乗り越えた。

 「優勝できて、いい報告ができてホッとしている。お父さんのことを突然思い出す時もあるだろうけど切り替えて頑張っていかないといけない」

 次戦の全日本選抜選手権(6月14、15日、東京・代々木第2体育館)を見据えながら、実家には戻らず練習を再開する。「お父さんのためにもリオで4連覇」。悲しみを乗り越え、レスリング漬けの日々がまた始まる。

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