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【コラム】金子達仁

選手発掘へ スポーツ界全体でも求む“現役ドラフト”

[ 2023年6月10日 07:00 ]

2022年プロ野球・現役ドラフトで、ソフトバンクから阪神へ移籍した大竹耕太郎。6勝を挙げる活躍を見せている(6月3日終了時点)
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 かなり熱心なプロ野球ファンであっても、昨年のいまごろ、現役ドラフトなるものに強い関心を抱き、また、それが選手と球団の命運を大きく変えるものになる、などと読んでいた方はほとんどいなかったに違いない。(金子達仁=スポーツライター)

 現役ドラフトとは、言ってみれば人材の再利用である。所属しているチームではどうやら出番は増えそうにない。そんな選手を、よそで同じような境遇にある選手と交換する。名前が挙がっていたのは1軍2軍の当落線上にいる選手が多く、そんな選手を入れ替えたところで、大勢に影響などあるはずがない。そう考えるのが普通である。

 ところが、だった。

 この新システムがなければ、阪神の現在はまったく違うものになっていた。ソフトバンクから来た大竹が6勝0敗。これがなかったとしたら、6日時点で2位のDeNAと勝ち星で並ばれる。阪神だけではない。かなりのチームが、現役ドラフトの恩恵を受けている。きっと、年末の第2回ドラフトは、かなりの注目を集めることになるだろう。

 芽が出ないのは、必ずしも選手個人の才能や努力だけに問題があるわけではない、という認識が、これまでよりは一般化する。

 この流れを、スポーツ界全体に広げられないだろうか。

 昭和に比べれば相当に減ったようだが、それでも、野球の競技人口は、いわゆるマイナースポーツに比べれば圧倒的と言っていい。そして、強豪校では、一度も公式戦に出場することなく高校生活を終える選手もいる。

 サッカーも、また然(しか)り。若年層にもリーグ戦が導入される地域が増えたことで、以前に比べれば試合への出場機会は増えたとはいえ、トップチームで出場できる選手の数には限りがある。

 もちろん、そんな境遇の中から「いつかは這(は)い上がってやる」と闘志を燃やす者もいるだろう。だが、向上心や成功を求める気持ちは持ちながら、サッカー選手としての自分に可能性を感じにくくなってくる層もいる。わたし自身は、完全な後者だった。

 もしあの頃、そんな自分にも適したスポーツがある、サッカーでは使い物にならない自分でも、輝ける場所があると教えられていたらどうだったか。

 先日、女子ホッケーの東京五輪代表、及川栞に話を聞く機会があった。

 「陸上の短距離やってた選手とかがホッケーに来たら、すごい武器になると思うんですけどね。あと、バスケやバレーをやってた長身の選手とか」

 ホークスで活躍できなかった選手がタイガースで花開いたように、レギュラーになれなかった選手、全国大会に出られなかった選手、プロになれなかった選手にも、ひょっとすると他の世界で脚光を浴びる可能性がある。これまでの日本は、一つの競技で結果が出ないと、そのまま消えていくしかない社会だったが、それをこれから変えてはいけまいか。

 ボブスレーなどは、以前から選手発掘テストをやっているが、主体となっているのはボブスレーの側。これを、いわゆるメジャースポーツの側から、自分たちの世界で不遇を託(かこ)つ選手たちに働きかける形をとっていけば、様相は一変する。競技によっては、大学生になってから始めても十分五輪を目指せるものもある。

 ちなみに、ボブスレーの選手発掘を後押ししているのはtotoに代表されるスポーツくじ。少なくとも、サッカーとの関係は深い。(金子達仁=スポーツライター)

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