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【コラム】金子達仁

代表チームの強さと人口は無関係である

[ 2022年12月19日 17:00 ]

FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会

<クロアチア・モロッコ>モロッコに勝利し喜ぶクロアチアイレブン(撮影・小海途 良幹)
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 【W杯戦記】代表チームの実力は、その国の人口と無関係ではない――そう信じていた時期がある。

 なぜブラジルは南米の中でも突出して強いのか。なぜナイジェリアはアフリカ人からも別格とみられているのか。

 人口が多いことと無関係ではない、と当時のわたしは考えていた。ドイツが強いのもイタリアが強いのも、人口を理由にすれば納得がいく。いつかはスペインやフランスが世界王者になるはずだとも思っていた。

 だから人口が1億人をはるかに超える日本が、W杯に出られないはずがない。そう思った。まだ日本がW杯に出たことがない時代の話だった。

 まだクロアチアという国が生まれたばかりの時期だった。

 かつてクロアチアが属していた旧ユーゴスラビアは、「東欧のブラジル」と呼ばれた国だった。セルビアにはストイコビッチがいて、クロアチアにはプロシネツキがいた。マケドニアにはパンチェフ、モンテネグロならミヤトビッチがいた。

 だが、キラ星のごとくスターを揃(そろ)えながら、ユーゴスラビアがW杯で活躍することはなかなかなかった。30年大会と62年大会に準決勝まで進出したものの、最高級のスターたちを智将オシムが率いた90年大会でさえ、ベスト8止まりとなっている。

 ご存じの通り、もはやユーゴスラビアという国は地球上に存在していない。代表チームの強さと人口の関連性を信じていたわたしは、分裂していくユーゴスラビアの各国が再びW杯の舞台に戻ってくることはまずないだろうと思っていた。

 それが、どうだろう。

 ユーゴスラビア時代ですら2回しかたどりつけなかった準決勝の舞台に、クロアチアはすでに3度到達している。国土が小さくなり、人口が激減し、しかし、クロアチアは衰えるどころか、強豪国としての地位を不動のものとしつつある。

 もう、認めざるを得ない。代表チームの強さと人口は、無関係である。

 近い将来、モドリッチが代表チームを離れることになれば、しばらくの間、クロアチアにとっては厳しい時代が続くかもしれない。ただ、2大会連続して見せた決勝トーナメントでのしぶとさは、クロアチアの象徴として国内外で記憶されていくことになる。これは、ドイツやブラジルが有し、ユーゴスラビアがついに持ち得なかったイメージという名の「宝」でもある。

 東欧の小国クロアチアが2大会続けてベスト4に進出したとなれば、おそらく、わたしが大好きなウルグアイ人の闘志にも火がつく。半世紀以上世界一の座から遠ざかっている初代王者たちは、どこかで「自分たちは小国だから」と諦めているところがあった。W杯創成期ならばまだしも、いまとなっては…という言い訳を、クロアチアが消し去った。この影響がポジティブな形で表れることを、いまから期待したい。

 もう一つ、どういう形で影響が及んでいくか興味深いのが中国である。

 20世紀の後半までサッカーの熱と実力でははるかに日本を上回っていながら、W杯とは無縁の時期が長く続く中国。サッカーと人口を関連づけて考えてきたわたしには、これまた、大きな謎だった。

 ならばいっそのこと、中国代表を現在のような選抜チームではなく、カーリングよろしく、国内を勝ち抜いた地域代表に出場権を与えるようにしたら?わたしが中国足球協会の人間なら、真剣に考えてみる。(金子達仁氏=スポーツライター)

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