×

【コラム】金子達仁

Jリーグの発展こそが“6・7キロの差”埋める礎となる

[ 2022年12月7日 07:00 ]

FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会決勝トーナメント1回戦   日本1―1(PK1―3)クロアチア ( 2022年12月5日    アルジャヌーブ競技場 )

<日本・クロアチア>試合後、ガックリと動けない南野を長友と鎌田がなぐさめ、浅野を吉田がなぐさめる(撮影・西海健太郎)
Photo By スポニチ

 【W杯戦記】勝てた試合だった。勝たなければいけない試合だった。

 再試合、もしくは抽選に代わる勝者の決定方法として導入されたPK戦は、引き分けのあとに行われる危険な運試しである。英国の名優ショーン・コネリーに言わせれば「フットボーラーズ・ロシアンルーレット」。日本は相手より先に弾丸を頭に撃ち込んでしまった。それだけのことだ。

 だが、勝てなかったこと、厳密に言えば勝ちに行かなかったことが、手の届くところにあったベスト8を取り逃がすことにつながった。

 延長前半9分、クロアチアはモドリッチとコバチッチをベンチに下げた。この時点で、ピッチにいたクロアチアの選手たちは、間違いなくPK戦への突入を意識したはずである。彼らにとって、ゴールは奪うものではなく、奪われてはいけないものになった。日本が対峙(たいじ)しているのは、前回大会準優勝のクロアチアではなく、コスタリカのようなクロアチアになったのだ。

 だが、日本のやり方は変わらなかった。必要なのはトップからのプレスではなく、後方からのボールを溜(た)めてくれる選手だったが、そういうことができる選手、たとえば上田は最後までベンチに座ったままだった。

 コスタリカ戦での不出来を思えば、起用をためらう気持ちはわかる。ただ、完全に攻めっ気を捨てたクロアチアを放置したことが、勝ち上がりを運否天賦(うんぷてんぷ)に委ねる結果につながった。

 この日の森保監督の采配に、わたしは、合格点はもちろんのこと、及第点をつけることもできない。

 ただ、森保監督の采配なくして、日本がここまで勝ち進んでくることがなかったのも間違いない。彼はよくやった。信じられないぐらいによくやった。目標の「ベスト8以上」はかなわなかったものの、前回大会のベスト16よりは、少しだけ、しかし確実に日本代表は前進した。

 一般的に、サッカー選手は1試合につき10キロほど走ると言われている。ということは、W杯で優勝するチームは、7試合×10キロ、つまり大会を通して70キロを走る、走ることが許されているということになる。

 ベスト8に進出する国であれば50キロ、ベスト16ならば40キロ。だが、今回の日本は30分の延長を戦った。4年前よりも3・3キロほど、余分に走ることが許された。ベスト8との間にあった10キロの差は、今回、6・7キロまでに縮まった。

 だから、森保監督は、選手は、胸を張っていい。

 では、この差をさらに詰めていくには何をするべきか。

 まず、海外でプレーする選手たちが、目標値をいまよりも高く設定することが大切になってくる。海外でプレーすること、レギュラーになることを目標とするのではなく、各々(おのおの)の選手がより大きな存在を目指すようにならなければ、壁を越えるのは難しい。日本が次の段階に進む上で必要なのは、日本のスターではなく、世界のスターである。

 そして、そうした存在を生み出す母体となる、Jリーグを発展させなければならない。W杯だけが注目を浴びる現状から、Jリーグの大一番が国民的注目を集める日常を目指さなければならない。

 方法は、ある。

 なでしこがそうだった。ラグビーもそうだった。代表チームの活躍は、一時的な国内リーグの活況を呼ぶ。問題は、それをいかに持続的に発展させていけるか。

 何もせぬまま、ただ時間を浪費していくさまだけは、見たくない。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る