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【コラム】金子達仁

8強「以上」目標ゆえの大迫選外か

[ 2022年11月4日 11:00 ]

日本代表・森保監督
Photo By スポニチ

 こううんりゅうすい。行雲流水。空行く雲や流れる水のごとく、自然の成り行きにまかせて行動するたとえ、だとか。恥ずかしながら、わたしはこの年まで「ぎょううんるすい」だと思い込んでいた。恐縮至極。ただ、時に言葉に詰まり、時に目を潤ませた森保監督の姿から察するに、選考の過程は七転八倒だったに違いない。

 W杯の最終メンバー発表から一夜が明けた。思わぬ抜擢(ばってき)に欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した選手がいた一方で、驚天動地(きょうてんどうち)の衝撃を受けたであろう選手もいる。

 ただ、今回は通常のW杯と違い、メンバーが発表されてからもクラブでの試合がある。一応、ドイツ戦がキックオフされる24時間前までは、医師の診断書があればメンバーの入れ替えは可能だとされている。簡単なことではないことを承知の上で言うと、選ばれた選手は油断大敵、漏れた選手は山溜穿石(さんりゅうせんせき)の精神で頑張っていただきたい。

 なぜあの選手を入れて、この選手を切ったのか。W杯を巡る戦いのすべてが終わるまで、森保監督が明らかにすることはないだろうし、ひょっとしたら、最後まで言わない可能性もある。なので、現時点で部外者にできるのは、抜擢と落選の理由を自分なりに考えること、ぐらいしかない。以下はわたしの壁越(し)推量。

 まず考えたのは、なぜ原口が外れ、相馬が入ったのかということ。タイプは違うが、どちらも非常に使い勝手のいい選手であることは間違いない。日本代表における現在の立ち位置が、交代選手として投入されるというところも同じ。

 おそらく、原口の落選を知らされたベルリンのメディア、ファンは唖然呆然(あぜんぼうぜん)の心持ちだっただろうが、だからこそ、森保監督は相馬を選んだとは考えられないか。

 つまり、ドイツ人は原口を知っている。相馬のことは、ほとんど誰も知らない。これから知ろうとはするだろうが、彼らの側からすれば、所詮(しょせん)海外のクラブから声がかかっていない有象無象、である。どうしたって警戒心は希薄になる。

 低い重心からねじ込むような相馬のドリブルは、ひょっとすると、ドイツ相手の切り札たりえる。まず三笘を投入し、そちらに警戒心を引き付けたあとの乾坤一擲(けんこんいってき)……想像しただけで欣喜雀躍したくなる。

 大迫の落選に関しては、彼のプレーがどうこうというより、チーム内の年齢バランスが一因かな、と思っている。

 今回、森保監督は守りのポジションに多くのベテランを起用した。ただ、多すぎるベテランは、チームが跳ねるために不可欠な勢いを削(そ)ぐことがある。経験によって得た先を見る力が、過猶不及(かゆうふきゅう)に働いてしまうのだ。

 今回、チームとしての目標は「ベスト8」ではなく、「ベスト8以上」。となれば、攻撃面においてはどこかで無鉄砲というか、危険なぐらいに大胆不敵なプレーも必要になってくる。それができるのは、経験か、若さかと問われれば、答えは一目瞭然である。

 閑話休題。わたしは毎年、プロ野球ドラフト会議直後の特番を非常に楽しみにしている。いささかお涙頂戴に振りすぎているとは感じるものの、あの番組のおかげで親近感を抱くようになった選手は数多くいる。

 似たようなことをW杯最終メンバー発表でできれば、サッカーに興味を持ってくれる方が確実に増えるのでは、などと思った。このままだと、大器小用かな、と。(金子達仁氏=スポーツライター)

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