佐藤泰志作品5作目の映画化、秋の公開が楽しみ

[ 2021年4月30日 16:05 ]

2014年2月に河出書房新社から出版された佐藤泰志特集本の表紙

 【佐藤雅昭の芸能楽書き帳】没後に評価が高まった芸術家や作家は意外と多い。例えば、詩人で童話作家の宮沢賢治。「注文の多い料理店」「雨ニモマケズ」「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」などの作品を残したが、注目を集めたのは1933年9月21日に37歳でこの世を去ってからと伝わる。詩人の草野心平らによる紹介、全集出版が大きかった。

 結核のため、「檸檬」「城のある町に」「ある心の風景」「のんきな患者」など、わずか20編ほどの短編を残し31歳で逝ってしまった作家・梶井基次郎(1901年2月17日―1932年3月24日)も亡くなってから広く認められたといっていい。

 佐藤泰志もそんな1人に数えていいだろう。函館出身の作家。「きみの鳥はうたえる」が第86回芥川賞(1981年下半期)の候補になり、その後も「空の青み」(88回・82年下半期)、「水晶の腕」(89回・83年上半期)、「黄金の服」(90回・83年下半期)、そして「オーバー・フェンス」(93回・85年上半期)と5度も芥川賞にノミネートされた。ちなみに83年下半期には干刈あがた氏の「ウホッホ探検隊」も候補になっている。3月24日に88歳で死去した田中邦衛さんを主役に起用して根岸吉太郎監督(70)が86年に映画化した作品だ。

 話を戻す。佐藤は当時から知る人ぞ知る才能豊かな書き手だったが、やはり候補で終わるのと受賞するのとでは雲泥の差がある。89年には「そこのみにて光輝く」が三島由紀夫賞の候補になっているが、こちらも落選。不遇のうちに佐藤は90年10月10日、自らの手で41年の生涯に幕を引いてしまった。

 2007年に「佐藤泰志作品集1」が刊行されているが、再発見、再評価につながるきっかけを作ったのは2010年に公開された映画「海炭市叙景」ではなかったか。函館市民映画館「シネマアイリス」の代表を務める菅原和博氏(65)が製作、企画に携わり、東京国際映画祭で上映されて話題を呼んだ。

 菅原氏はその後も「そこのみにて光輝く」(14年)、「オーバー・フェンス」(16年)、「きみの鳥はうたえる」(18年)と佐藤作品の映画化に尽力。没後30年となった2020年には「草の響き」(1979年)の映画化を発表。主演が東出昌大(33)であることが4月21日付の北海道新聞朝刊などで明らかにされた。

 コロナ禍の中、昨年11月から3週間、函館で撮影を行ったという。心に失調をきたし、治療のためにランニングを日課とする主人公が路上で出会った若者と心を通わせていく…という内容だ。

 宮沢賢治にとっての草野心平のように佐藤泰志も菅原氏という理解者がいて光が差した。天国で感謝しているに違いない。

 5作目の映画化となるが、「海炭市叙景」が熊切和嘉、「そこのみにて光輝く」が呉美保、「オーバー・フェンス」が山下敦弘、「きみの鳥はうたえる」が三宅唱、そして今作の「草の響き」が斎藤久志とすべて監督が違うのも珍しい。前4作がそれぞれ高い評価を受け、毎日映画コンクールなど数多くの映画賞に輝いているだけに、斎藤監督のプレッシャーはいかに。「草の響き」の公開は秋に予定されている。(一部敬称略)

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2021年4月30日のニュース