「半分、青い。」“秋風ラスト”秘話　壁画に３羽の鳥と涙　トヨエツ自ら提案し一発本番　奇跡のシーンに

連続テレビ小説「半分、青い。」第８１話の１場面。秋風（豊川悦司）と菱本に漫画家を辞める決心を伝える鈴愛（永野芽郁）（Ｃ）ＮＨＫ
Photo By 提供写真

　ＮＨＫ連続テレビ小説「半分、青い。」（月〜土曜前８・００）で朝ドラに初出演した俳優の豊川悦司（５６）が“怪演”して“変人”を愛すべきキャラクターに創り上げた人気少女漫画家・秋風羽織は４日に放送された第８１話で、創作に苦しむ弟子の鈴愛（永野芽郁）を思い「漫画を、もう、辞めたらいいと思います」と引導を渡した。事務所の壁画に３羽の鳥と涙を描き入れた秋風の“ラストシーン”は、当初の台本を豊川自らのアイデアで変更。制作統括の勝田夏子チーフプロデューサーに、豊川の最終撮影となった“奇跡のシーン”の舞台裏を聞いた。

　漫画家編のストーリー展開について、勝田氏は「『半分、青い。』という作品は鈴愛が漫画家になる物語では決してなく、失敗を繰り返しながらも七転び八起きで生きていく姿を描くので、漫画家としての鈴愛に引導を渡すのは秋風であるということは、豊川さんにオファーする段階から決まっていました。鈴愛の人生における師匠として引導を渡し、次のステップに送り出す役割です。鈴愛の転機に深く関わる人物ということが、今回、豊川さんがこの役を引き受けていただいた大きな理由の１つだと思います」と説明した。

　秋風の初登場は第２１話（４月２５日）。長髪＆サングラスの風貌はイラストレーターのみうらじゅん氏（６０）にしか見えないとＳＮＳ上が沸いたが、この風貌は豊川の提案。当初から「秋風がいつサングラスを外すか。どこかで１回、外したい」と豊川とスタッフの間で話が持ち上がっており、結局、一番最後の場面になった。

　豊川の要望にスタッフが応え、秋風の“ラストシーン”を豊川の最終撮影に。豊川のクランクアップとあり、スタジオ内の関係者も通常より多く、勝田氏は「緊張感といいますか、熱気といいますか、固唾をのんで見守っているのが、ひしひしと伝わりました」と雰囲気を思い返した。

　秋風の“ラストシーン”のト書き（セリフの間に書かれた俳優の動きや演出などの説明・指定文）について、豊川とドラマ史に残る名作、ＴＢＳ「愛していると言ってくれ」（１９９５年７月クール）を生んだ盟友で、今作の脚本を手掛ける北川悦吏子氏（５６）も「ト書きの通りじゃなくても構わない。ある種、豊川さんにお任せします」と現場に委ねた。

　勝田氏も「ト書きの内容と（豊川の演技が）変わるということは聞いていたんですが、本番になるまで実際にどう変わるのかは分かりませんでした。大方の関係者は、そこで何が行われるか分からずに見ていたわけです」。豊川が自らのアイデアで演じたのは、秋風の事務所「オフィス・ティンカーベル」に飾られた、マイクを手に歌う女性が描かれた壁画（秋風の劇中漫画として使用された漫画家くらもちふさこ氏の絵）に、３羽の鳥と涙を青いペンで描き加えるというもの。初めて外したサングラスを頭の上に乗せて――。３羽の鳥は３人の弟子、鈴愛、ユーコ（清野菜名）、ボクテ（志尊淳）か。涙は秋風自身のものか。１枚しかない壁画にペンを入れるため、撮り直しの利かない一発本番の芝居に、豊川は自ら挑んだ。

　第８１話、鈴愛は自分のことを「飛べない鳥」と言った。「鳥が空を飛ぶ＝自分の人生を生きるということが通奏低音になっている回ですが、豊川さんが描き入れた鳥はテーマに合致していますし、それに、もともと壁画に描かれている女性が羽毛のような衣装。いろいろなことがパズルのようにカチッとハマり、シャレでも何でもなく、鳥肌が立ちました。美術スタッフも、まさか豊川さんが鳥を描き加えるとは思わず、いい絵だなと壁画を選んだと思いますから」。偶然が重なり、奇跡のシーンが生まれた。

　秋風の目は真っ赤。涙をため、今にもこぼれ落ちそうだった。インターネット上には「秋風先生のサングラスを外した目が真っ赤なのがもうたまらん…。とうとう涙腺決壊」など、もらい泣きの声が相次いだ。

　ドラマ前半は豊川が牽引。勝田氏は「やはり思い切りやるということは、非常に大事だなと改めて実感しました。豊川さんはコミカルなシーンも率先して振り切って取り組んでくださいました。『やり過ぎたら、止めてね』というぐらいに」と証言。「北川さんが描くワールドに参加すると決めた時の潔さ。今回、北川さんが攻めた内容を書いてこられて、私もスタッフもなるべくブレーキをかけず、そこに乗っかって楽しく膨らませていこうとしているんですが、そういう姿勢を豊川さんは見事に演技で体現してくださいました。後半もこの姿勢を忘れずに励んでいきたいと思います」とベテランの取り組み方に感謝した。