【夢中論】夏木マリ バラ色の日々…人生を豊かに変えた花との出合い

[ 2017年5月9日 11:00 ]

自身が作った真っ赤なバラ「マリルージュ」を持ちクールにたたずむ夏木マリ
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 夏木マリ(65)は花に特別な思いがある。自身が立ち上げた途上国支援プロジェクトやライブ活動のシンボルに赤いバラを使用。自宅でも花に囲まれた生活を送る。「お花のない暮らしなんて考えられない」「私が育てているようで、私が育てられてるの」。花と出合い、人や仕事との向き合い方も変わったと語る。

 コップ一杯の常温の水を飲んだ後、同じく常温の水を花にやる。それが一日の始まり。「私が飲みたいんだから、この子たちも一緒だろうと思って」。余分な葉を間引きながら「おはよう」「元気?」とあいさつ。そして朝食のリンゴをかじり、スマートフォンで撮影した花の“表情”を自身のブログに掲載する。出発の時に「行ってくるね」、帰宅した時に「ただいま、きょうもお疲れさま」と声を掛けるのも忘れない。

 「お花は生き物。話し掛けるとちゃんと咲くし、放っておくとすぐに枯れちゃう。写真もただ撮るだけじゃダメなの。“いい表情ね”と愛を感じた時に写真を撮ると、別物のように良くなる。必要なのは愛。人間と一緒よね」

 自宅は毎日、花であふれている。夫でパーカッション奏者の斎藤ノヴが花を買って帰ってくることもある。深紅のバラ、初夏に甘い香りを漂わせるシャクヤク、気温が下がると美しさに深みが増すダリア…季節に合わせてさまざまな花が瓶やグラスに生けられ、リビングや部屋を華やかに彩る。「大きなお花が好き。赤や白のはっきりした色のお花を選ぶことが多くて、逆にピンクとかは少ないかな」。毎週金曜になじみの店から花束を届けてもらい、舞台やライブなどに出演した時にプレゼントされる花も必ず持ち帰って大切に育てる。「お花と付き合って“命”というものを凄く感じるようになったの。お花のない暮らしなんて考えられない」

 昔から花に強い思い入れがあったわけではない。意識が変わったのは8年前。エチオピアを旅した時、どのレストランに行ってもテーブルの上に一輪のバラが飾ってあるのを見て驚いた。

 「貧困に苦しんでいる人たちなのに、生活に決して必要のないお花を大切にしている。その志に感動した。そういう生活って素敵だな、お花と付き合うのっていいなと思ったの」

 エチオピアがバラ栽培を産業として育成していることを知り、帰国後、友人たちと話しているうちに「バラを使って支援をしよう」と意気投合。バラを販売し、その収益の一部で途上国を支援する「One of Loveプロジェクト」を立ち上げた。

 当初、バラはエチオピアから輸入していたものを販売していたが、安定供給ができなかったため「自分のバラを作ろう」という展開に。バラの産地として知られる山口県柳井市に足を運んで、新たな品種を作ることになった。

 「どのお父さんとお母さんを掛け合わせたいかと聞かれても分からないじゃない。最後は“香りがないけど元気な子がいいか、香りがあるけど可憐(かれん)な子がいいか”という選択になって、香りがなくても元気な子にした」

 誕生した真っ赤なバラに、自分の名前を取って「マリルージュ」と命名。「作るところから参加したから思い入れが強くって」。毎年6月に開催している支援ライブのシンボルにもマリルージュを使用。ライフワークとして取り組んでいる舞台「印象派」シリーズの最新作「印象派NEO vol.3」でも赤いバラを印象的に登場させた。

 「お花って可憐に見えて凄く力強い。水が欲しければ、こんなに欲しかったのかと驚くくらい大量の水を吸い上げて意思表示する。色も本当に個性的。一つとして同じ色なんてない。この力強さって舞台に似てるのよ」

 酸いも甘いもかみ分けた生き方で幅広い年代の女性から“姐(あね)さん”と慕われるが、気持ちに余裕が生まれたのも花と出合ってからだ。「お花を育てるのって、無駄といえば無駄な時間。それに付き合えるなんて昔の私じゃ、とても考えられない。仕事や時間に追われてギスギス、ギスギスしていたもの」

 それが今では毎日、まめな手入れをして、つぼみが開いただけで「ありがとう、咲いてくれて」と声を掛けずにはいられない自分がいる。「そういう日常の生活って外に行った時に醸し出される。お花をいじって無になっていると、不思議と仕事のアイデアも生まれたりするのよ。私が育てているようで、私が育てられてるの」。花との触れ合いが、夏木の人生と仕事をより豊かなものにしている。

 ≪全国ライブツアー10日スタート≫一昨年から毎年行っている全国ライブツアーが、今年も10日の東京公演からスタート。「One of Loveプロジェクト」関連の支援ライブも来月21日に東京・赤坂BLITZで行う。今回は歌手の泉谷しげる(68)らが参加予定。夏木は「泉谷は3回目。いつも最後の“One of Love”という曲をふてくされて歌わないんだけど、今年は歌うって言ってたよ」と明かした。

 ◆夏木 マリ(なつき・まり)1952年(昭27)5月2日、東京都生まれ。71年に本名の中島淳子で歌手デビュー。73年に現在の芸名で発表した「絹の靴下」がヒットし、注目を集めた。93年から「印象派」をスタート。01年にジブリ映画「千と千尋の神隠し」で湯婆婆(ゆばーば)の声を担当。11年5月にパーカッション奏者の斎藤ノヴと結婚した。

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