勘九郎、七之助兄弟 7月にNY公演 勘三郎さん遺志継ぎ“本場”へ

[ 2014年5月1日 11:30 ]

ニューヨーク公演へ向け気合十分の中村勘九郎(左)と七之助の兄弟

 歌舞伎俳優の中村勘九郎(32)、七之助(30)兄弟が7月、「平成中村座」を率いて演劇の本場、米国ニューヨークに乗り込む。一昨年12月に急逝した父、勘三郎さんの遺志を継ぐ一大公演。演目は、十八代目が得意とした「怪談乳房榎(ちぶさのえのき)」だ。試練を乗り越え大きく成長した2人は「本当は父と一緒に行くはずでした。ここからは僕たちの仕事です」と声をそろえた。

 希代の歌舞伎役者、十八代目勘三郎さんが、冬晴れの空に旅立って1年5カ月。その思いを継ぐニューヨーク公演を控えた勘九郎は、真剣な表情でこう語りだした。

 「生前の父が、いかに多くの人たちに愛されていたか、いまさらながらによく分かりました。僕たちがこうして、いろいろな仕事をさせていただけるのは、父のことを慕ってくれた皆さんが声を掛けてくれるおかげ。本当に感謝です」

 舞台の上で幼い頃から追い続けたとてつもなく大きな背中。歌舞伎界での後ろ盾、かけがえのない存在を突然失い、この間、どれほどの動揺と不安があっただろう。そんな中村屋の若きリーダーに新たな一歩を踏み出させたのは、まぎれもないその父との約束だった。

 「確か3年ほど前のことでしたね。父が“3度目のニューヨークに行くぞ、これをやるから”って言いだして。その時、父と僕が半分ずつ、Wキャストでやろうって決めたんです。だから、今回は父の気持ちがギュッと詰まった舞台ですね。本当なら一緒に行くはずだったんですから」

 演目の「怪談乳房榎」は、落語家の三遊亭円朝の人情噺(ばなし)が原作。90年、「八月納涼歌舞伎」(歌舞伎座)で初役を務めた勘三郎(当時勘九郎)さんが、大胆な早替わり、本水を使った大立ち回りなどの趣向を凝らし、娯楽性豊かな人気演目に仕立て上げた。十八代目の代表作の一つだ。

 勘九郎は、昨年3月に次いで3度目の上演。絵師の菱川重信、下男の正助、悪党のうわばみの三次の3役をスピーディーに演じ分ける。勘太郎を名乗っていた11年8月、新橋演舞場で初挑戦した際には、勘三郎さんから「早替わりのショーになってはいけない。それぞれの役の個性を際立たせることが重要なんだよ」と繰り返し指導されたという。

 「実際に習ってないと、この役はできないと思う。動きも激しいので役者同士の息が合わないといけないし、舞台裏の動線もきちんと把握しておく必要もあります。あの時、教えておいてもらって本当によかった」と、厳しかった父との稽古を振り返った。

 ◇怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)三遊亭円朝の三大人情噺の一つ。1888年(明21)に「東京絵入新聞」で発表され、9年後に真砂座で初演。菱川重信に弟子入りした、浪人の磯貝浪江が重信を殺害。美しい妻のお関を手に入れる。浪江は重信とお関の間に生まれた乳飲み子の命も奪おうと企てる。大詰め「大滝」の本水を使った大立ち回りも見どころ。

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2014年5月1日のニュース