新作を咲大夫さんと約束…井上ひさしさんの文楽幻に

[ 2010年6月16日 20:38 ]

 4月に亡くなった劇作家の井上ひさしさんが昨年6月、文楽太夫の豊竹咲大夫さん(66)に対し、井原西鶴作品などを基にした新作文楽を書き下ろす約束をしていたことが16日、分かった。咲大夫さんは幻となった新作を思い「残念です」と語り、死を悼んでいる。

 咲大夫さんによると、井上さんとは昨年6月15日、日本芸術院賞の授賞式で初めて会った。井上さんが1972年に発表した義太夫「金壺親父恋達引」がテレビで放送された際、咲大夫さんが出演していたことを明かし、意気投合した。
 咲大夫さんが「文楽の新作を書いてください」と頼むと、井上さんは「2年ぐらい先なら書きます」。文楽に西鶴の作品がないことが話題となり、井上さんは「西鶴を勉強し直してみましょう」と語っていたという。
 翌16日、咲大夫さんが「約束をお忘れなく」とファクスを送り、井上さんは17日に返信。「笑って笑って、しまいには泣くような物語と、力強くてしなやかでリズムに豊んだ日本語を実現できるようがんばります」などと意欲を示していた。
 咲大夫さんは国立劇場と相談を始めていたが、井上さんの急逝で約束は果たされなかった。咲大夫さんは「まさに一期一会の出会いだった。ファクスは大切にとってあります」と話している。

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2010年6月16日のニュース