鳥越裕介氏 しんどい練習が今に生きている、という江川の思いが心底うれしかった

[ 2023年12月12日 06:00 ]

三重県伊勢市を訪れ、江川智晃と記念写真(本人提供)
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 【鳥越裕介のかぼす論】プロ野球もオフシーズンになると、寂しいニュースが多くなる。今年も戦力外通告があった。ソフトバンクで一緒に戦った森唯斗や嘉弥真新也、上林誠知といった面々が思っていたよりも早く、通告を受けた。ただ、この3人は他球団が興味を示すだろうというのはあったし、それぞれいい条件でセ・リーグの球団に決まったのはほっとした。3人ともに野球を真摯(しんし)にやっていたので、こういう結果になったのだと思う。もう一度、活躍することによって恩返ししてもらいたい。

 ロッテの三木亮からも戦力外通告を受けたという連絡をもらった。スーパーサブのような存在で、コツコツやるタイプだ。指導者としての資質もあると思ったのでコーチ時代は細かいことまで要求した。コーチの打診を受けて「正直迷っています」と話していたが「スタートは早いほうがいい」とアドバイスをした。俺が俺がと前に出て行くのがプロ野球の世界。そんな中でチームのために献身的に自己犠牲ができるのが、彼の特徴でもある。視野の広さもある。2軍内野守備兼走塁コーチになることが球団から発表されたが、必ずやってくれると思っている。

 戦力外通告を受けて野球界に残る者もいれば、違う道に進む者もいる。12月に福岡市内で江川智晃の披露宴があった。当時、球団買収寸前だった2004年11月にドラフト1位としてダイエーに指名された。野球の世界では大きな成功は収められなかったが、彼は経営者としてビジネスにおいて活躍する。故郷の三重県で精肉販売のほか、伊勢市内に「とんかつ四十三番」もオープンさせている。

 多くの選手と関わってきたが、人間性においては本当に素晴らしく、尊敬できる一人だ。披露宴にはチームメートだった千賀滉大や柳田悠岐も出席していた。立派に乾杯の音頭をとった福田秀平に驚き、久しぶりに会う中西健太が元気そうなのもよかった。江川の周りにはいい仲間が集まる。後輩には慕われ、先輩にもかわいがられる。人の良さというのは、これからの人生においてはマイナスになることは絶対にない。

 まったく違う仕事をするのは大変だろうと、江川に聞いたことがある。彼は「あの時のことがあるから耐えられます」と言った。2軍監督の時、伸び悩んでいた数人の選手と一緒に遠征先で夜の自由時間を奪ったことがある。夜間練習で40分間、ただ、黙って素振りをさせた。声を出すのも禁止し、こちらも何も言わない。あの空間は相当、しんどかったと思う。今に生きていると言ってくれて、心底、うれしかった。いい豚肉を生産し、うまいとんかつを出す。伊勢市を訪れた際には、ぜひ、足を運んでほしい。 

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