変わらない 楽天・田中将のウイニングショット

[ 2021年3月7日 09:00 ]

楽天・田中将
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 投手のウイニングショットを表現する言葉に「宝刀」がある。野茂英雄がフォークなら、高津臣吾はシンカー(敬称略)。千賀滉大のお化けフォークは進化型か…。いずれにしても、一流投手には欠かせない素養のひとつだ。

 巨人の優良助っ人だった右腕ビル・ガリクソンが来日した88年、初めて「SFF=スプリット・フィンガード・ファストボール」という言葉を知った。当時は「握りを浅くした落差の小さい、速いフォーク」などと表現されることが多かった。いまでは「スプリット」で、十分通用する。

 時代は巡り、カットボールやツーシームもすでに一般的。変化球マニアともいえるパドレスのダルビッシュは昨年、スプリットとツーシームの中間のような変化球を「スプリーム」として開発し、SNSで紹介した。ダルビッシュのように11種類とも言われる変化球の使い手は、さすがにレアケース。1種類でも「宝刀」と言える武器を身につけることは、全ての投手の1つの目標だろう。

 さて、6日のバンテリンドーム。楽天・田中将大が日本球界復帰後、オープン戦に初登板した。2番手で4回からマウンドに上がり、6回にスプリットを打たれるなど失点。7回はスライダーを決め球に、連続三振を奪っうなどして修正力を示した。スライダーに関しては、試合中に曲がり幅を微調整した右腕は「力の入れ具合とかを変えてから、打者の反応が良くなって、食いついてきてくれた」と振り返った。

 田中将と言えば「スプリット」が代名詞。ただ、プロ1年目からの3年間、楽天を担当した記者にはまだ「田中将=スライダー」の残像がある。田中将自身が何かのメディアで「若い頃の投球フォームは見たくない」と振り返っていた若手時代。頭を一塁側に倒しながら「これでもか」とボールをひねる、今で言う「パワーカーブ」のような曲がり幅の大きなスライダーの球筋は、いまだに頭に残っている。

 しばらく担当を離れ、14年のヤンキース1年目に再び取材。そのころは、すっかりスプリットの使い手だった。捕手は困ればスプリットのサインばかり。それでも、そのウイニングショットが不調な時は、スライダーで窮地を打開した試合が幾度もあった。一時は通用しないとして、投球全体の10%を下まわる年もあった直球も、過去3年は25%前後まで再び増加。ツーシームにも磨きをかけた。年を追うごとに投球は多彩になった。

 引き出しの中には「宝刀」の選択肢は豊富にある。しかし、プロ15年目を迎えた右腕のウイングショットは変わっていない、と記者は思っている。打者との勝負に勝つ、チームを勝たせる。座右の銘は「氣(気)持ち」。田中将の「宝刀」はずっと「スピリット」のままだ。(記者コラム・春川 英樹)

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2021年3月7日のニュース