四国IL徳島・谷田 3度指名漏れも“由伸2世”と呼ばれ感謝

[ 2018年12月10日 11:00 ]

 【決断番外 ユニホームを脱いだ男たち】「高橋由伸2世」と呼ばれた男は、スーツ姿で就職活動の毎日だ。「企業の方にお話をうかがったり、OBに相談したり、1日2、3人と会っています」。アマ球界のエリート街道を歩んできた谷田。しかし、ドラフト会議では、慶大4年の15年、社会人のJX―ENEOS2年目の17年、そして四国アイランドリーグplusの徳島に在籍した今年と、3度とも声が掛からなかった。

 「今年が最後と決めていたし、可能性が低いことは分かっていた」。上位指名確実と言われながら指名漏れした3年前とは「気持ちも全然違う」という。ユニホームを脱ぐ覚悟はできていた。だから、現役最後の試合も楽しむことができた。

 10月16日。宮崎でのフェニックス・リーグに四国IL選抜の一員として西武戦に出場した谷田は、第1打席で右中間三塁打を放つと、第3打席では1軍でも実績ある高木勇からバックスクリーンに本塁打を叩き込んだ。「チームメートも引退試合のように盛り上げてくれて、一生、心に残る試合。早慶戦で優勝を決めた本塁打と同じくらい幸せな瞬間でした」。観衆30人の前で放った1本は、特別なものになった。

 谷田は今年3月、JX―ENEOSを退社。単身渡米し、MLB球団とのマイナー契約を目指した。しかし、契約には至らず、2カ月で帰国。無謀な挑戦に否定的な声もあったが、後悔はない。「余計なプライドは捨て、自分が正しいと思った方向に進む。迷いや引っかかることもあるけど、そういうのはいらないことが今回の挑戦で分かった。これからも目標を見つけたら、そういうふうに生きたい」。プロ入りの夢はかなわなかったが、第二の人生を歩む上での道しるべができた。

 慶大の偉大な先輩と比較され、常に付きまとった「高橋由伸2世」という形容詞。「自分ではそう思ったこともないし、ダメな時はその名前のことで、つらい思いもした。でも、“由伸2世”で自分を知ってもらえたのも事実だし、それで声を掛けてくれた企業もあります。もう少し使わせてもらいます」と笑う。現在、スポーツに関わるビジネスの仕事から野球とは無縁の一般企業まで、幅広く話を聞いており「年内には決めたい」と言う。「高橋由伸2世」の看板を下ろすのは、もう少し先になりそうだ。 (甘利 陽一)

 ◆谷田 成吾(やだ・せいご)1993年(平5)5月25日生まれ、埼玉県出身の25歳。川口リトル時代に世界大会で準優勝。慶応高では高校通算76本塁打も甲子園出場はなし。慶大では大学通算15本塁打。高校、大学で日本代表を経験。JX―ENEOSに入社も、今年3月に退社。米球界挑戦を経て、四国アイランドリーグplusの徳島入団。1メートル83、89キロ。右投げ左打ち。

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