東京五輪の金メダルが大目標でいいの? NPBの方向性が心配だ

[ 2017年6月18日 11:00 ]

ライトスタンドに広げられたビッグフラッグ「『結束』そして『世界最強』へ!」
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 【君島圭介のスポーツと人間】なんだろう。この違和感。侍ジャパン新監督の人選基準だ。日本野球機構(NPB)の井原敦事務局長は「2020年東京五輪の金メダルという大目標へ向け、チームをつくりあげていただける方」と打ち出した。もやもやする。

 五輪は国際イベントの最高峰。金メダルは誇りであり、アスリートがそれを目指すのは本能だ。だが、大リーグ機構(MLB)は金メダルを「大目標」にしない。そもそも五輪への参加にも消極的。MLBは自国のリーグが野球の最高峰と自負するからだ。

 年間二千万人以上も観客を動員するのにNPBという組織は変わらないなあ、と思う。90年代はMLBもNPBもビジネス規模は同じ1500億円ほど。今はどうだ。MLBがコミッショナー主導で1兆円産業に成長したのに対し、NPBは横ばい。その危機感から選手側が身を削って団交を繰り返し、リーグのビジネスモデルとして「侍ジャパン」のコンセプトを作り上げた。まだ5年前の話だ。

 将来までNPBが存続するためのアマチュア球界の底上げ。とくに若年層をターゲットにした野球人口の拡大こそが「大目標」だったから選手側も全面協力を約束した。いつの間に「大目標」が五輪の金メダルにすり変わったのだろう。

 今の小学生が憧れるアスリートはテニスの錦織圭であり、フィギュアスケートの羽生結弦だ。球界関係者は「子供たちは世界で戦う姿に憧れる」と分析するが、金メダルを獲れば野球に憧れてくれるのだろうか。祭りの後で「そういえば野球もやってたね」とならないだろうか。

 新監督の任期が東京五輪終了までと聞いて、さらに驚いた。勝てる大御所に任せたはいいが金メダルを記念に「御隠居」されたら、また始めからやり直しだ。「勝つだけ」の監督はいらない。新監督は五輪を通過点としながらビジネス感覚や国際感覚を養い、野球界のリーダーに成長する資質を持った人物こそが相応しい。

 NPBは一部球団の思惑やスポンサー企業の意向に従うのではなく、将来のプロ野球コミッショナーを育てるほどの覚悟で主体性を持って新監督を選任すべきだ。実績があり、若く、人気があり、しかも現在ユニホームを着ていない逸材はいくらでもいる。

 王貞治はWBCで経験を積んだ小久保裕紀の続投を提言した。松井秀喜、長谷川滋利、石井一久らMLB経験者も面白い。卓越した技術論と広い視野を持つ仁志敏久、宮本慎也も適任だ。今は学問の世界に身を置いている桑田真澄だっているではないか。

 彼らのような人材が侍ジャパンを率いて東京五輪、WBCを戦い、さらに10年、15年後にはコミッショナーとなって辣(らつ)腕を振るう。新監督に託すのは金メダルではない。野球界の未来なのだ。NPBは周囲の空気を忖度(そんたく)せず、長期的な計画性を持って選任を行ってほしい。 (敬称略、専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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2017年6月18日のニュース