イチローと一問一答「僕も切ったら赤い血が流れますから」

[ 2016年8月9日 05:30 ]

<ロッキーズ・マーリンズ>試合後の会見で目を赤くするイチロー
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ナ・リーグ マーリンズ10―7ロッキーズ

(8月7日 デンバー)
 イチローの会見は、球場内の倉庫の一角に黒い幕を張った急造の会場で行われた。米国での注目度も高く、狭いスペースに報道陣がごった返す中、イチローは達成の喜び、そこに至るまでの苦しみを語るとともに、今後への思いも口にした。

  ――3000安打を達成した率直な気持ちは。

 「この2週間、ずいぶん(人間より老化が早い)犬みたいに年取ったんじゃないかと思うんですけど、あんなに達成した瞬間にチームメートが喜んでくれて、ファンの人たちも喜んでくれた」

 ――本塁打を狙った?

 「いやいや、全く狙ってないですよ。そりゃ、イメージでは、ホームランになったらいいなとか考えますけど、そんなに甘いもんではない。ただ打球が上がった瞬間は越えてほしいと思いました。結果的には、三塁打で決めたというのはポール・モリターと僕ということだったので、そのほうが良かったなと」

 ――三塁ベンチからチームメートが近づいてきた時の気持ちは?

 「どういう形になるのか僕にも全く想像できなかったわけですから、おそらく一塁(ベース)の上で達成するなと。確率として、達成するなら多分シングルだろうなと思っていたので、チームメートに労力をかけなくてよかったなと(笑い)」

 ――感情の振れ幅が一番振れた瞬間は?

 「この国には粋という概念はありませんが、“察する”という概念はあるんだなと。みんな察してくれていた。1打席、2打席、3打席と終わった時に誰も何も言わないんですよ。それがうれしかった。みんな口にしなくても分かってくれる。だからこそ結果を出したいという気持ちがもっと強くなる。だからあのヒットが出た時は当然そのギャップがあるわけで、みんなの顔を見た時は凄く安心しました」

 ――これまで大記録を達成してきた時は、必ずその試合か次の打席で次の1本を放ってきた。9回の打席の気持ちは?

 「できればホームランを打とうと思いました。3―1から狙いにいきました。3―2になって、おそらく3000を達成していなければ、(ボール球に)体が反応して打ちにいって、ファウルもしくは凡打になったと思います。打ちにいくのをやめたのは、3000を打ったことによってそうさせたんだと思います(結果は四球)」

 ――2998安打になってから、9日間進められない状況。でも、敵地でも素晴らしい迎えられ方をした。

 「セントルイスのファンが特別な空気をつくってくれたことが始まり。これだけ長い時間、特別な時間を僕にプレゼントしてくれたというように考えれば、(代打中心の)この使われ方もよかったなと、今は思います」

 ――到達までに苦しんだ印象がある。

 「代打じゃないですか?それはしんどいですよ。ただでさえ代打ってしんどいですからね。この状況で代打で結果が出ないっていうのは、ダメージ大きいですよ」

 ――代打で結果が出ないと、精神的にダメージも倍になる。

 「倍かどうか分からないですけど、重いですね。それなりに僕も、切ったら赤い血が流れますから。緑の血が流れてる人間ではないですから。感情ももちろんあるし、しんどいですよ」

 ――久しぶりの先発を告げられた時の気持ちは?

 「昨日(6日)のゲームの直後ですね。伝えられたのは。ただ何番かは伝えられなかったので、そこも教えてよと。ひょっとしたら1番じゃないかなって思っていたんですよね。ディー(ゴードン)を休ませて…。そんな粋なことをやってくれるのかなと思ったら、そうではなくて。まあ粋という概念がないですからね。ちょっと期待しすぎたということでしょ」

 ――苦しんだ後の3000安打はどういう意味を持つものか。

 「皆さんもそうですけど、これだけたくさんの経費を使っていただいて、ここまで引っ張ってしまったわけですから、本当に申し訳なく思っていますよ。そりゃもう、ファンの方たちにもたくさんいたでしょうし。そのことから解放された思いの方が…、思いの方がとは言わないですけど、そのことも大変大きなことですね。普段そこにあった空気がなんとなく乱れていたというのも感じていましたし、明日から平穏な日々が戻ることを望んでいます(笑い)」

 ――米国では3000安打は偉大なレジェンドの仲間入りを意味する。

 「レジェンドって何か変な感じですよね。よく最近聞きますけどね。何かバカにされたみたいでね(笑い)」

 ――27歳でのデビューは3000安打到達者で最も遅い。

 「そのことはそんなに僕の中では大きなことではないですけど、2年くらい遅いですよね。感触としては。ずいぶん時間がかかったなという感触です」

 ――イチロー選手の安打には全て意味がある。

 「ただバットを振るだけで、3000本はおそらく無理だと思いますね。瞬間的に成果を出すことはできる可能性はありますけども、それなりに長い時間、数字を残そうと思えば、当然、脳みそを使わなくてはいけない。まあ、使いすぎて疲れたり、考えてない人にあっさりやられることもたくさんあるんですけど、それなりに自分なりに説明はできるプレーをしたいというのは僕の根底にあります」

 ――イチロー選手ほど野球が好きな選手はいないのでは。

 「そんなこと僕に聞かれても困りますけどねえ。うまくいかないことが多いからじゃないですか。もし成功率が7割を超えなくてはいけない競技であったら、つらいと思いますね。3割で良しとされる技術なので、打つことに関しては。自分の志と言ったらちょっと重いですけど、それさえあればその気持ちが失われることはないような気がしますけどね」

 ――昨年と今年の数字に違いがあると思うが、オフの期間にどういったことを変えたのか。

 「分かりやすい数字の目標があったので、それはいつの段階かは分からないですけど、今シーズン中にやりたいというふうには思ってました。あのローズおじさんの記録(4256安打)と、この3000っていうのは分かりやすい数字だったので。でも春の段階ではどういう起用のされ方か、全く分からない状況でしたから。ざっくりとそういうものがあったという程度ですね」

 ――技術の見直しは?

 「技術は毎年、特に打つことに関しては変えることはあって、それがうまくいくこともあるし、そうじゃないこともある。凄く繊細な技術ですから。ただ、例えば走ることや投げることは、測ることができますよね。それを見た時に、例えば走ることは明らかに速くなってしまっているので、それを諦めることはできないですよね。スピードが落ちてしまったなら、(周りが)あの人も時間がたったんだなと考えるのも、分からなくもないですけど。残念ながらスピードは上がってしまっているので、打つことだけが能力が落ちるということは考えにくいと、僕の中ではつなげていました」

 ――一般の人間には達成感というのは今後の目標に向けての邪魔になる。3000安打の達成感をどうやって昇華して次の目標に進むのか?

 「え、達成感って感じてしまうと前に進めないんですか?そこが僕にはそもそも疑問ですけど。僕は味わえば味わうほど前に進めると思っているので、小さなことでも満足することっていうのは凄く大事なことだと思う。だから、僕は今日のこの瞬間とても満足ですし、それは味わうとまた次へのモチベーションが生まれてくると、これまでの経験上信じているので、これからもそうでありたいと思っています」

 ――3001安打目は、マイアミのファンの前で打つことになる。地元ファンに向けたメッセージは?

 「次のヒットがそういうメッセージであるということは想像していますけれど、それもごくごく普通のことですよね。ロードで達成して、ホームに帰って。次にどういう起用のされ方か分からないですけど、次に立つ1打席というのはまた違う意味で特別なものになると想像しています」

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