“異色”でなくなることが夢 ママさんラガー兼松由香

[ 2015年12月10日 09:00 ]

ママさんラガー兼松由香

 「異色の◯◯」。この仕事をしていると、ついつい安易に使ってしまう表現だ。一方で、だからこそ取り上げる価値があるとも言える。

 先月末にリオデジャネイロ五輪出場を決めた女子の7人制ラグビー日本代表「サクラセブンズ」にも、異色の存在がいる。兼松由香、33歳、既婚で1児の母。チームメートからは「ゆかあさん」と呼ばれることもある最年長だ。

 競技歴は5歳から。5歳年上の兄が通っていたラグビースクールに付き添ううち、自身もラグビーの魅力に取りつかれた。ただ、中高はラグビー部がなく、ソフトボール部に所属。「元々右打ちだった」が、監督から「へたくそなんだから左打ちにして塁間を縮めて、ヘッドスライディングで盛り上げろ」と指示され、その通りに。大学進学を機にラグビーを再開するため、思い残すことがないようにと高3で国体出場も成し遂げた。

 ラグビーでの目標は、当初は15人制のW杯に出場することだった。それは19歳だった02年のスペイン大会で早くも達成した。セブンズの五輪採用が決まったのは09年で、当初は「次の世代の選手のこと」と目標にはできなかったという。しかし、主将を任される予定だった09年のセブンズW杯の大会直前に膝の前十字じん帯を断裂。もう一度大舞台に、との思いは募り、夫の修さんと話し合いの上、リオ出場も目指すことにしたという。

 そんな兼松には、もう一つの目標がある。「02年のW杯で初めて世界のラグビーを知った。他の国の選手は結婚していて、試合の後に赤ちゃんを連れていたり、結婚指輪をされていたりしたのを目の当たりにした。それまでは出産や結婚を機にラグビーを辞めるのが普通だと思っていた。ましてや代表活動など無理だろうと思っていたが、その道も可能じゃないかと、その時から意識した。その後にニュージーランドに半年留学した時も、所属チームにママさんラガーがたくさんいて、お母さんたちが練習しているそばで子供たちが遊んでいる風景が当たり前だった。日本でもそれが当たり前の風景になったら、女子ラグビーの人口が増えて盛り上がる」

 06年に結婚し、翌年に長女・明日香ちゃん(8)を出産。その1カ月後にはラグビーを再開した。秩父宮ラグビー場で行われたアジア予選日本大会では、駆け付けた明日香ちゃんから手作りのメダルを首に掛けられ、顔をくしゃくしゃにして喜んだ。年間200日に及ぶ代表拘束期間は、名古屋にある実家の実母に娘を預ける。双方、寂しくないはずはないが、自らママさんラガーを実践して、その輪を広げようとしている。

 ラグビー熱が続く日本列島だが、女子の競技者人口は約3000人とも言われる。同じような立場の選手が増え、私が兼松を「異色の存在」と書けなくなることが、彼女にとっては理想なのだ。(阿部 令)

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