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震災犠牲…フェンシング・千田の親友母 遺影掲げ感涙

[ 2012年8月7日 06:00 ]

 ロンドン五輪フェンシング男子フルーレ団体で、残り1秒で追いつき、逆転でメダル獲得となった日本チームの粘りに、東日本大震災の被災地からも称賛の声があがった。銀メダルを手にした千田健太(27=ネクサス)は宮城県気仙沼市、淡路卓(23=同)は仙台市の出身で、被災者からは「私たちの希望と誇り」の言葉も。フェンシング業界も沸いている。

 ロンドン市内の会場「エクセル」の観客席には、表彰台で銀メダルを胸に下げた千田に向け、一段と高く遺影を掲げる女性の姿があった。震災による津波で亡くなった岩手県陸前高田市職員、小野寺諭さん=当時(25)=の母礼子さん(61)だ。

 千田と小野寺さんは小中高まで一緒だった幼なじみ。東京の大学に進んだ後も、帰省すると必ず小野寺さんのアパートに泊まるほどの仲だった。

 前回の北京五輪(08年)では個人11位。帰国後、弱音を吐く千田に小野寺さんは「次はおまえがメダルを獲れよ」と怒鳴った。その言葉を胸に大舞台に臨むことを聞いた礼子さんは、気仙沼市から思い切って現地に足を向けた。苦悩を乗り越え勝ち取った銀メダルに「息子を失った喪失感は回復していないけれど、本当に来て良かった。健太君は鬼気迫るものがあった。頑張っている姿を見て、涙が出た」と話した。

 気仙沼市でも歓喜の声が広がった。祖母節子さん(84)は「帰ってきたらおいしいものを食べさせてあげたい」とほっとした表情で孫の活躍をねぎらった。

 高校フェンシング部のOBで、同市で印刷業を営む菅原了さん(29)は、自宅と店が津波の被害を受けた。「“被災地のために”という気持ちが重荷にならないか心配だった。団体戦ではプレッシャーをいい方向に持っていけた。希望と誇りを与えてもらった」と喜んだ。

 気仙沼市では「市全体が元気付けられた」として、市民名誉賞などを贈ることを検討。震災以降、初の表彰となるだけに「ぜひ子供たちに銀メダルを見せてほしい」と凱旋帰郷を期待する。

 宮城県出身の千田、淡路の活躍に、村井嘉浩知事は「素晴らしい戦いぶりだった。被災地の住民、宮城県民に大きな力を与えてくれた」と称えた。

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2012年8月7日のニュース