【ヴィクトリアM】橋田師、開業2カ月半 アイサンサンで狙うスピードG1制覇

[ 2026年5月13日 05:30 ]

アイサンサンで厩舎初G1に挑む橋田宜長師

 水曜企画「G1追Q!探Q!」は担当記者が出走馬の陣営に聞きたかった質問をぶつけて本音に迫る。春の古馬マイル女王決定戦「第21回ヴィクトリアマイル」は大阪本社の入矢美奈(32)が担当。今年3月4日に開業したばかりでアイサンサンを送り出す橋田宜長師(37)に「G1初挑戦」「前走&舞台」「確かな経験」の3テーマを問う。

 【G1初挑戦】いい意味で力が抜け、泰然自若とした雰囲気を漂わせている。橋田師は丁寧な取材対応で、物腰の柔らかい誠実な人柄が印象的。開業からわずか2カ月半でアイサンサンを初のG1へ送り出す。「たくさんの方に見ていただくレースだと思うので、いい競馬をお見せしたい。馬に対しては不必要なことを考えず、いつも通り挑みたいですね」。大舞台への参戦はおのずと脚光を浴びることになるが、喜びをかみしめつつも、馬ファーストの姿勢は普段と変えることはない。

 明確な指針で厩舎の結束力を高めている。キャリア、年代、働いていた環境がバラバラな人材をまとめるために掲げたのが、それぞれ3点からなる「調教方針」と「厩舎方針」。調教については(1)四肢のバランス、(2)心身のバランス、(3)馬の健全な成長、厩舎については(1)リスペクト、(2)相手のためにもう一つ、(3)馬優先主義を重視する。既に3勝を挙げ、【34428】で連対率17・9%、複勝率28・2%と上々のスタートを切った。「意向をくみ取りながら先回りして仕事をしてくれています」とスタッフに信頼を寄せ、リスペクトしている。それでも全てがうまくいっているわけではない。「結果をうまく出せず、馬や関係者の方々に申し訳ない気持ちになる時が多い」と率直な思いを漏らす。飾らず、そう言えるのも師の人柄。そういった点も厩舎全体のいいムードにつながっている。

 【前走&舞台】記録と記憶に残る勝利になった。前走愛知杯は厩舎にとって開業19日目の重賞初挑戦V。大外18番枠から果敢に逃げて直線、2着馬に詰め寄られるも差し返して頭差の接戦を制した。橋田師は「幸さんの好騎乗でしたよね。勝負根性が凄かったです」と振り返る。

 今春、定年引退を迎えた佐々木師の管理馬として2走前の戎橋Sでオープン入り。厩舎解散に伴って橋田厩舎で新たなスタートを切った。「2走前にいいパフォーマンスを見せてくれたので、そのいい流れを継続するイメージで」と佐々木厩舎の仕上げを踏襲する形で愛知杯へ。間違いはなかった。前走を勝利したことで、この中間も調整パターンを変えることなく進められている。今回の東京マイルは昨秋の鷹巣山特別(2勝クラス)で勝利経験がある舞台だ。「勝った時は1000メートル通過が57秒5。逃げ馬が沈んで前に有利な展開ではなかったけど(道中2番手から)勝ち切った。それを見ると東京は合うんじゃないでしょうか」と適性を見込んでいる。

 【確かな経験】助手時代、積み重ねた経験が生きている。中竹師の下でアリスヴェリテ(24年マーメイドS勝ち)をはじめ、サヴォーナ(23年神戸新聞杯2着、24年日経新春杯2着)、ティムール(23年青葉賞3着)と重賞で好走実績があるキズナ産駒に携わった。アイサンサンも同産駒。「追い詰め過ぎず、軽すぎず。そのバランスを大事にしています」。言葉では表現できない馬の雰囲気を、研ぎ澄まされた五感を頼りに感じ取る。

 馬が身近にいる環境で育った。希代の逃げ馬と称され、98年宝塚記念を制したサイレンススズカは父・満氏(73)の管理馬。小学生の頃に見て「人なつっこくて奇麗。凄く輝いていた」と鮮明に記憶に残っている。G1・11勝を含むJRA通算744勝を挙げ、23年に定年引退を迎えた父の存在は大きく「自分の厩舎をリスペクトしてくれているので何か言われることはないが、困ったことがあれば相談しています」と頼りにしつつ、その背中を追いかける。

 《開業19日目重賞V》アイサンサンの前走愛知杯は橋田師にとって開業19日目の重賞初勝利。開業5日目で75年クイーンS(アンセルモ)を制した諏訪富三師に次ぐ歴代2位のスピード記録となった。JRA・G1初勝利は93年ジャパンC(レガシーワールド)を制した森秀行師の開業69日目が史上最速。橋田師は開業75日目でヴィクトリアマイル当日を迎える。また、JRA・G1初挑戦Vは昨年、桜花賞(エンブロイダリー)で開業2年目の森一誠師が達成した。

 【取材後記】橋田師が取材中に「本当に運がいいんです」と何度も繰り返していた。これまでの多くの出会いが財産になっている。元調教師の父・満氏の下でディアドラの海外7カ国転戦にも携わり、香港、米国などで研修。そこで香港のピエール・ン師と出会い、チームづくりに感銘を受けた。「働いている方々が厩舎が好き、仕事が好きって口にするんですよね」。ジャンルは違えど、理想像としてはサッカー日本代表の森保一監督の名前を挙げた。18年から8年もプレッシャーのかかる大役を務め、日本を強く世界で戦えるチームに仕上げた。自分の置かれた立場に固執することなく、広い視野を持っている。
 自身は中学、高校と函館の全寮制で過ごし、早大時代の出会いも刺激的だったと言う。たまたま巡ってきたわけでなく、自ら行動することで運を引き寄せているんだと感じた。まだ開業したばかり。先は長いが橋田師がビッグタイトルを手にする日はきっとそう遠くない。(入矢 美奈)

 ◇橋田 宜長(はしだ・よしたけ)1988年(昭63)10月4日生まれ、滋賀県出身の37歳。栗東の調教師だった父・満氏の下で15年から調教助手。ディアドラの海外7カ国転戦(19年春から20年秋)にも携わった。23年、父の定年引退による厩舎解散に伴って中竹厩舎へ。24年に調教師試験合格。今年3月4日に開業し、JRA通算39戦3勝、うち重賞1勝。

この記事のフォト

「2026 ヴィクトリアM」特集記事

「新潟大賞典」特集記事

ギャンブルの2026年5月13日のニュース