愛と優しさが隠し味 胃袋と心を満たす美浦トレセンの“母”

[ 2018年7月11日 05:30 ]

厩務員食堂で食事補助に従事する蛯名マサさん(左)と斉藤恵子さん
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 【馬好き人好き 裏方さんの仕事】競走馬が元気に走れるのは厩舎関係者のたゆまぬ努力と世話があるから。そのスタッフの活力源が美浦トレセン通用門近くにある「厩務員食堂」だ。

 午前9時。早朝の重労働を終えた厩務員がおなかをすかせて訪れる。「おはよう。いらっしゃい」。レジ前で優しく声を掛けるのが勤続35年の大ベテラン蛯名マサさん(69)。高橋祥厩舎で厩務員だった夫の武二氏(72)とトレセンが開場した78年から美浦に居住している。厩舎従業員の福利厚生施設のため常連が多く「卵焼きは甘めでお願い」と味付けの注文も。食事補助業務をこなす蛯名さんは「利用する人は、独身の厩務員や助手がほとんど。来る時間は決まっていつも一緒。毎日200人ぐらいやって来るかしら。注文の受け付け、配膳、洗い物。ハードな仕事ですよ」と忙しい日常を振り返る。

 厩舎スタッフとは家族のような心温かい関係性をのぞかせる。「お馬ちゃんどうだった?勝った?今度いつ使う?」。蛯名さんは親身になって声を掛ける。「やりがいはお客さんとの会話。人とのつながりが感じられる」としみじみ話す。22年勤める斉藤恵子さん(65)は「お客さんとは何十年もの付き合いになるから家族的になる。毎日会うから自分の子供より見ている」と笑う。顔を合わせれば体調の変化にも敏感に気が付く。親子のように仲が良く、ぬくもりのある空気が食堂を包み込む。

 斉藤さんも夫・長春氏(65)が元厩務員だった。競走馬を支える裏方を知る2人は「朝暗いうちに家を出て雨でも猛暑でも働いて。時には命を落とすこともあるから本当に大変な仕事」と声をそろえる。過酷な現場を知っているからこそ、食を元気の源にしてほしいと心から願うのだ。“美浦トレセンの母”たちの愛と優しさが食堂の隠し味。おいしい食事、ほっこりする会話。厩舎スタッフは胃袋だけでなく心も満たされている。

 ≪日替わり定食が人気 一般の人も利用可能≫ボリューム満点のメニューを安価で提供する厩務員食堂の1番人気は日替わり定食。取材した日はジャージャー麺、ギョーザ、ライス、おしんこ、ミニケーキのセット。麺類は特に人気があり、蒙古(もうこ)ラーメンは辛みとうま味が絶妙と評判だ。「こんなところにこんなおいしい麺があるの?とよく言われます」と蛯名さんもお勧めする。厩舎従業員を優先しているが、一般の人も食事が可能(定食は50円増し)。酷暑を乗り切る「勝ち飯」をご賞味ください。

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2018年7月11日のニュース